2007 11/09 更新分

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 「四日市環境再生まちづくりプラン」まとまる <中>
宮本憲一さんの基調講演に続いて、いよいよ『提言』の発表に。はじめに検討委員会の副座長で政策調査研究会の事務局長を務めた遠藤宏一さん(南山大学)から3年間の検討の経過や『提言』の構成などが紹介され、以下、除本理史さん(東京経済大学)、宮入興一さん(愛知大学)、岡田知弘さん(京都大学)、そして遠藤宏一さんからそれぞれ4つの部会を代表して各受持ち分野の『提言』概要についての説明が行われました。以下はその概要です。  
【文責:司 加人/写真:山下英俊】

【提言発表紹介】  遠藤宏一 (「検討委員会」副座長・南山大学総合政策学部教授)

特筆されるJECの若手研究者の積極参加

「環境再生まちづくり検討委員会」の副座長兼政策調査研究会事務局長の南山大学の遠藤宏一です。
まちづくり検討委員会・政策調査研究会を組織としてはご存知かもしれませんが、まちづくり市民会議などのシンポジウムや講座を開催する実戦部隊であるとともに、実際にまちづくりの政策的な内容を研究、これは日本環境会議の会員の先生方、あるいは地元の先生方を含む研究者を中心とする政策提言に向けての必要な専門的調査研究を行う組織の二本立てで活動してきました。

本日お配りした最終的な『提言』を政策調査研究会でまとめるため、ワーキンググループを組織しまして、私がその座長をしておりましたので、最初にこの報告書が出来た経緯と構成を簡単にご説明させていただきます。
写真:A4版、108ページに及ぶ『政策提言報告書』をまとめた検討委はより多くの人たちに読んで欲しいと望んでいる

政策調査研究会は、最初の2年間は調査研究ということで、市民会議やシンポジウムなどと並行しながら、4つの部会―地域経済部会、地域計画・行財政部会、環境政策部会、社会関係部会を設け、それぞれの研究を進めてもらいました。総勢30人前後の研究者の方々です。この部会報告書がそれぞれ5月までにまとまり始め、全部で5冊の部会報告書をつくってあります。これは限定版です。四日市の図書館と公害資料室に寄贈しました。報告書の105ページにテーマと誰が担当して研究したかを整理してあります。これを踏まえて、6月から集中的に本日配りました最終報告書を本格的に作成する作業に入りました。ワーキンググループを中心に作業したのですが、その範囲には留まらず、政策調査研究会の方々にもご協力頂きました。その成果が1章と2章であります。これは各部会報告書の成果をベースに、特に現状分析、いわゆる診断にかかわる部分と政策的な課題に関わる部分を意識して書きました。さらに部会報告書のダイジェスト版的になったところもありますし、取り上げられなかったこと、触れられなかったこともありますが、第2章でほぼ部会報告書を網羅し、しかもコンパクトにした形で載せてあります。これを踏まえまして最終的な処方箋ということで具体的な政策提言を第3章にまとめさせていただきました。

今日ここでご報告するのは第3章を中心に、第3章の部分をレジュメ風に使わせていただきながら、提案の根拠は2章のどこで述べているかを記してあります。詳しくは各参照部分を読んでいただければ、その根拠をご理解いただけると思います。おおよそそのような構成になっています。

今回特筆されることは、当時はまだ学生にもなっていなかったであろう日本環境会議を中心とする若手研究者たちが積極的に四日市に入り、まとめてくれたことです。後段でも申し上げますが、今後ともこのつながりを地元でもぜひ生かしていただきたいと思います。しかしながら、頑張っていただいたにもかかわらず残念ながら色々な限界もあり、幾つか残された大きな課題があることも事実です。とくに心残りは自動車の排ガス問題が、四日市に即してきちっと検証できていません。もう一つは農業・農村政策を考える研究者がきちっと参加していただけなかったこと。さらには防災問題、我々が出来るぎりぎりのとこまでは宮入先生に検討いただきましたが、もっと踏み込めばさらに大きな問題がでてくると思います。増してや先日も四日市で爆発がありましたが、企業内なのでオープンにはなっていませんが、私の調査した限りでは1ヵ月に1回はあの程度の爆発は起こっているのです。だから潜在的な危険性はずいぶん大きいわけです。そこに加え、中越沖地震で原発問題がクローズアップされてきまして、この問題はきわめて重要にもかかわらず、いままでシンポジウムなどでも詰めきれてないと思われます。幾つかそういった重要な問題が取り残されていることは申し添えておきます。
写真:3年間の作業をリードしてきた遠藤さんの説明は達成感に溢れていた

宮本先生の基調講演と重複しないようにしてお話しますと、第一部ではなぜ今、四日市で環境とか再生とかを考えなければいけないのかを書かせていただいております。四日市市は35周年を意識したのでしょうか、先日合併した旧楠町で蛍がコンビナートをバックに飛び交っているポスターを作り、四日市公害を克服したという宣伝をはじめてますが、そういう認識で本当によいのであろうかということを問うことがやはり重要であります。
四日市公害判決の意義は3つあります。とりわけ立地上あるいは操業上の過失が裁かれた意義については、全国的にも歴史的にも認識されてこなかったと思います。したがって、公害健康補償法が後退あるいは廃止されたことを受けて80年代前後から日本の環境政策がまた後退期に入りますが、その前後から西淀川、川崎、水島、尼崎、名古屋南部などでもう一回大気汚染訴訟が起きてきたわけです。今回私も色々勉強させていただいて気がついたのですが、日本環境会議が環境再生に取り組み出したのはつい最近と思っていたのですが、実は裁判の時に宮本先生が問題提起をされておられた。これは2005年名古屋南部の判決5周年の弁護士さんの講演があった時、弁護士の篠原さんからものすごい問題提起をうけたらしく、あらためてその時の資料を読み返し、なるほどと思ったのですが、そこで環境再生まちづくりの意義―西淀川などの裁判をやるにあたっての意義―が指摘されていました。その取り組みを結局は90年代に西淀川を先頭に勝訴と和解を勝ち取った経験を生かして、被害者または原告団の方々がまちづくり財団をつくり、再生の取り組みを始めたわけです。それに比べて四日市は、このような提起は節目ごとになされてきたと思いますが、結局、今日までこの課題は果たされてきませんでした。したがって、今回の取り組みを始めてみてどうしても気づかざるをえなかったのが、地元四日市における公害問題の風化という現実です。これは土井妙子さんの分析でも明らかですが、四日市の人はあまり公害のことを知らないようだという記述がありますし、またある時は、四日市市民の人に「公害のことは忘れたいのよ」とも言われたとの記述もあるのですが、実はこれが現実だったわけです。ということは、まちづくりを問い直しているときに、まちづくりの主体がちゃんと存在しているのかどうかから問い直さざるをえない。我々の提言を活かすことが出来るのだろうか、ということから考えざるをえない困難な課題でした。

ただ、これも後半のところで提言しますが、「まちづくり市民会議」がつくられて、これから活動していくとのことなので、大いに期待しています。

さて、各論に移ります。
まず、なぜ環境再生かという意義についてです。
宮本先生が川崎の公害の時、弁護団に最後にまとめとして言われた言葉を少し紹介します。「たとえば四日市の場合でも、結局、被害者の救済だけをして、あの汚い、そしてこれだけ公害に悩んだにもかかわらず、まだまだコンビナートを拡張するという都市づくりでは本当の意味で裁判に勝ったとは言えない。川崎の裁判で追及されるべきは過去の損害賠償を含む産業公害を解決するだけではなく、もっと住みよい川崎市をつくっていくこと、緑豊かで文化的な川崎市に再生するための裁判なんだという形にぜひともして欲しいと思う」。こういうことを一番最後のまとめでおっしゃっている(『環境と公害』1982年秋号)。
環境再生まちづくりはここから始まっていて、全国の被害者の方々の取り組みがあり、それが日本環境会議で取り上げられ、理論化され、そして今日の四日市の活動につながってきているわけです。あとは、四日市で何を再生するべきか? 公害は終わってないよ! というのを書かせていただいたのが最初の第1章の「何を再生するのか」です。四日市の公害被害の全体像というところで、何点かに分けて被害者の方の社会的孤立の問題から、漁業・農業被害、地場産業衰退問題、さらに一番大きな問題は今日も残っている都市構造のゆがみや社会資本の非効率と5番目の企業城下町になってしまったこと。住民主体のまちづくりをどうやるかを「都市自治」という言葉で表現していますが、そういうものをどう再生するかが残された課題としてあることを意識しながら、各論的な分析、ご提案をさせていただくことになりました。

あと四日市の目指すべき都市像につきましては、第3章に述べてあります。私からのご報告、紹介は以上で、これからは各論の具体的な報告と提案を各代表からしていただきます。

【提言発表 1】  除本理史 (社会関係部会代表・東京経済大学経済学部准教授)

福祉の先進都市の実現には高齢化対策など問題山積


私からは<「公害のまち」から医療・保健・福祉の先進都市へ>ということでご報告します。報告書の90ページに政策提言のトップのテーマについて2ページにわたってまとめています。平たく言えば四日市は公害のまちだったというところから、それを踏まえ、福祉のまちづくりをしていくべきではなかろうか、福祉のまちになっていかなければいけないということを訴えたいわけです。

市当局の政策としても「福祉」は全国的にどこでも言われている課題です。しかし、戦後、公害対策の原点である四日市市で福祉と言う場合、公害病患者の方々にとってどういうような住みよいまちづくりをしていくのかと言わざるえないわけです。そして、これは公害病患者さんだけを考える訳ではなく、患者さんが住みよいまちづくりは地域の皆さんにとっても住みよいまちづくりと言えること。地域福祉を全体に向上させていくということであるわけです。特に公害病患者の現状を含めて考えていくことが重要であることは言うまでもありません。

報告書では第2部になると思いますが、患者さんの現状を報告したいと思います。12ページあたりに書いてあります。
今、患者さんは市内、旧楠町も含めてですが500人以上いらっしゃいます。そして、高齢化が非常に進んでいます。一つの理由は1988年に新規認定が停止され、それ以降患者が増えていないからです。では、認定されてない患者はどのくらいいるのか? それはまったくわかっていません。認定されている市内の患者さんでみると60歳以上の方は6割を占めています。全国での認定患者さんの割合で見ると4割ですから、全国平均に比べて1.5倍です。これで高齢化が進んでいることをご理解いただけると思います。
グラフ:四日市市における公害病患者の推移=四日市市ホームページより

次は13ページの<@ 公害患者の症状と療養の現状>の部分、患者さんの症状はどうだろうか? ということです。
第一に公害病が慢性化してきています。これは水俣病でも言えるわけですが、症状の重い患者さんは初期のうちに亡くなっています。今療養している患者さんは慢性化している患者さんです。これは症状が軽いわけではなく、治療薬などが改善されていることもあって、症状の経過がゆるやかになってきている、症状が引き延ばされていると考えていただいたほうがいいと思います。それの意味するところは、療養が長期化するということです。
第二には、その中で起こることは合併症の併発です。いわゆる公害病、喘息などの呼吸器疾患ですが、それだけではないさまざまな病気を合わせて持っている方々が非常にふえてきているわけです。これは公害病との関係は必ずしも明らかではないのですが、たとえば人工透析や癌の発症率も高いと言われています。さまざまな要因、高齢化も一つですが、あるいは公害病との因果関係が非常に密接だと考えられるのは、喘息の治療薬のステロイド剤を飲みますと骨がもろくなり、骨折しやすくなります。あるいは内臓疾患になりやすい。こういった治療の副作用によるものというのは明らかに公害病と関連して起っている合併症もあります。
第三に公害病そのものが重くなっている患者さんも中にはいらっしゃいます。在宅酸素療法などを利用している患者さんもいて、鼻にチューブをしている為、家の中での移動すら困難な方もいらっしゃるのが現状です。最後の点とも含めてさまざまな生活困難を抱えています。これは13ページの<A 公害病患者の抱える様々な生活困難>に書いてありますが、仕事上の制約、宿泊を伴う移動が困難、家に発作のための吸入器の常備などです。
そのほか、県立塩浜病院が移転して内陸のほうに移ったので、臨海部、とくに磯津の塩浜地区の患者さんが受けていた公害の専門医療を提供する病院がなくなってしまっていることからも問題が起っています。
現状の四点目は、報告書の13〜14ページにかけての<B 社会的な被害>ですが、派生的被害、社会的被害、端的に言えば患者さんに対する差別の問題です。認定を隠している患者さんは非常に多いという関係者の方々の話は印象的でした。

それがどのような状況を生んでいるかと言いますと、患者を社会的に孤立させていると考えられます。その一つの歴史的な背景としては公害対策、発生源対策に患者・被害者・支援者を参加させてこなかったことを含めて、公害病患者に金銭的な保証だけしてそれで済ますという対策がとられてきたことが一つの原因だと考えられるのと、最近では臨海部で高齢化が進んでいるため高齢者だけの世帯がふえ、孤立化が進んでいるということが考えられます。
写真:高齢化や合併症の併発など公害患者の厳しい現実を指摘する除本さん

以上の現状を踏まえまして、現状の課題として14ページの<C 公害病患者・遺族への補償等をめぐる課題>に触れてありますが、公害病患者さんに特に関係ある問題は、公害健康被害補償制度、公害健康被害補償法による補償の問題です。合併症がある、それによって患者さんの症状が非常に悪化してきているという問題をどうするか。いままでは公害病が重いかどうか、公害病の治療にいくらかかってるかという公害病だけの補償制度ですので、はずれた合併症という条件がでてくると、本来もらえるはずの生涯補償費(生活保障的給付)がもらえない。あるいは、亡くなった場合の死因が公害病そのものでない場合、遺族補償が減額またはもらえない状況が生じてきているわけです。
ですから、生涯補償費も遺族への補償金の額を決めるときは合併症の重症度を考慮して金額を決めていく必要があるのではないのか、というのが第一です。たとえば遺族補償は遺族補償、一時金と言う形でいっぺんに受け取ることが多いと思いますが、これは2007年度の実績をみますと、亡くなった方の性別・年齢などによって差があるのですが約400万〜1100万円です。しかし、これは死因が公害病が100%死因になっている場合のみに適用される金額でして、他の死因が寄与しているとされる場合は減額されてしまう仕組みになっています。起因率の判断のところに公害病以外の合併症などのことを考慮していかないと正当な補償がもらえなくなっていくということです。

それから、公害病患者さんに関連する2つ目の問題は、公害保健福祉事業というのがいわゆる公健法のもとで行われています。これは患者さんに直接行われるサービスです。転地療養医療事業は空気のよいところに行って、喘息をおさえるトレーニングなどをするものですが、この転地療養医療は期間が限定されていたり、制約が多いんです。たとえば80歳以上になると参加できないとか年齢制限とかがあります。制約が多いために参加者が減少して固定化してきているために機能しなくなってきているんです。これは市役所も認識しているようです。

二つ目は家庭療養指導です。これは保健師の方が市内在住の400人以上の患者さんを1年かけて回って把握していく制度なのですが、私たちがヒヤリングしたところ、保健師は1人で400人以上を廻っていたという、まったくお粗末な態勢と言わざるを得ません。

それから、三つ目の課題の高齢化の問題です。
59ページの<A 地域社会における高齢化の現状と要介護者の増加>のところで触れていますが、臨海部では高齢化が進んで人口が減少しているわけです。
そういう中で公害病患者の方々で二人とも認定患者のご夫婦だけの世帯、あるいは単独の世帯などが非常に増加してきている。これに加えて、公害患者さん独自の問題として先ほど触れた派生的被害があるという状況の中、公害病患者さんの孤立化をどう防いでいくのかという課題があります。これは地域全体、とくに高齢者福祉の向上をしていくなかで公害者患者さんの支援も向上していくことが課題になっているというふうに考えられます。

最後に提言を4点にまとめて申し上げたいと思います。90ページ以降、2ページにわたってあります。

まず、患者さんの救済に関して四日市市が設置している認定審査会の課題です。
一点目が合併症にかかわって発生している医療費をきちっと補償していく。
二点目が生涯補償費(生活保障的給付)も合併症の重症度に対して適切に考慮していく必要がある。
三点目が遺族の方々へ適切な補償をするために、特に認定審査会および市の他の諮問機関の判断の意見が非常に重要になってくるので、特に二点目と三点目については認定審査会の意思決定を開かれたものにしていくことが必要だろうと思います。これについては、たとえば倉敷市の水島地区ではこういった認定審査会以外にこれらの問題を判断する外部機関があるようでして、そことの間で意見を調整するということが行われている例があります。また、公害保健福祉事業の改善も考えられていいと思います。

次に、<福祉のまちづくり>ということから申し上げますと、一つは地域の医療水準をきちんと向上させていく。高齢化が臨海部で進んでいて医療ニーズが高まっている。一方では塩浜病院が移転してしまっているということがありますから、これには自治体―県と市が責任を持って公害病患者の療養の条件、地域の医療水準を向上させていくということが必要です。二つ目は、公害病患者さんを病気にかかっている患者さんという観点だけではなくて、さまざまな介護ニーズを抱えた方々、要支援者というふうに広く考えますと、福祉的サポートが必要になってくるでしょう。これについては西淀川の地域の取り組みが参考になると思います。午後の部で西淀川の方のご発言があろうと思いますので、ここでは省略させていただきます。

最後に、公害を経験した地域の福祉のまちづくりの重要な課題としては、生活の質=QOLを向上させていく地域の仕組みづくりがさきほどの宮本先生のご指摘にありましたように、さまざまな住民が組織している団体―たとえば地区社会福祉協議会とか自治会など既存組織はこれまで公害病患者に対して正面から取り組んできていなかったわけです。こういうような状況を改善しながら横の連携をつくっていって福祉コミュニティ―地域の高齢者、あるいは患者さんを支えていけるようなネットワークの形成が出来たらいいのではないかと考えます。

【提言発表 2】  宮入興一 (環境政策部会代表・愛知大学大学院経済学研究科教授)

想定される大地震への備えは行政・企業・市民にとって焦眉の急

災害・防災というかなりティピカルな問題を含めて提起しなさいとのことですので、出来るだけコンパクトに報告させていただきます。

四日市公害の最大の教訓はなんといっても市民の方の命と健康という、安全と安心のもっとも根本にかかわる基本的な人権を国と自治体が最優先の課題にすべきではなかったかというふうに思います。ところが、今日の四日市をみると、こういったところに非常に重大な問題をかかえているのではないでしょうか。特に公害、環境破壊の問題、災害問題においても同様ではないか。つまり市民の命と健康に深くかかわる問題が時として姿を変えながら繰り返し起こっているのではないでしょうか。
こういう問題を根本から解決するのが市民にとって、今や緊急で、最重要な課題になっているのではないかという認識に立って、問題提起したいと思います。
写真:大型コンビナートの割りに防災態勢はプアーと指摘する宮入さん

91ページに<公害・環境破壊の根絶にむけて>ということでまとめてあります。
7月14日の地元紙の朝刊に大きな記事が載りました。「夏は蛍 四日市イメージチェンジ大作戦」と銘打ったポスターを作成………という見出しで、合併した旧楠町の用水路に蛍の生息地があり、そこから約4km離れたコンビナートの夜景が見れる。この両方を合成写真にして、「公害のまち脱却」というイメージチェンジをねらうということでした。市長がポスターを持った写真と共に掲載されていました。さらに市の職員の名刺にも同じデザインを施しPRするとのこと。しかも名刺の裏には「過去には公害問題もありましたが、現在ではコンビナート近隣でも美しい環境が保たれ、夏には蛍が舞います。」というおまけつきです。

で、問題ははたしてそうなのかです。 四日市の公害をいわば廃棄物問題としてとらえるなら、実はまだ形を変えて存在し継続している。むしろその根絶こそが重要な政策課題になってるんじゃないかと思うのです。
私はダイジェストを作っただけなのですが、もともとの現状分析は17〜21ページのところと、山下先生や畑先生の論文を参照し、4点申し上げます。
一点目は、大気汚染公害の問題です。
これは硫黄酸化物に対しては一定の効果を挙げているが、窒素酸化物については国の甘い基準はともかくとして、三重県の定めた環境基準を達成できないわけで、これは今後も取り組みが必要であるということです。
二点目は、四日市公害は実はストックされた廃棄物問題として新しい形に変えた公害として派生しているのです。その実例の一つが日本最大規模の産業廃棄物の不法投棄事件になった川越建材興業の大矢知産業廃棄物の処理問題です。現在この現場は、許可済みの部分とそうでない部分がありますが、許可済みの部分でも本当は何が埋められているかわからないんです。鉛も銅もありそう、フッ素、砒素などもあるかもしれない。とにかく異常な状態です。一刻も早い実態の解明と対策が必要です。
問題の解決には、三重県はまず第一に処分場周辺の徹底した環境汚染の調査と、何よりもデータ公開をすべきです。第二に、これは私の下司な表現ですが(笑い)、文字通り「臭いものには蓋」的発想で、土をかぶせて後は雨水の排水対策をするという小手先の対策ではだめで、詳細な調査にもとづく全量撤去命令を含めた抜本的な対策が必要です。
三点目は、当事者の川越建材と排水事業者への責任の追及です。
そして四点目は、こういったことを許してきた三重県の対応の検証と産廃条例を含めた今後の不法投棄の防止等に早急に取り組むべきであるということです。
これらの過程を通じて、県は四日市と周辺の住民の方々に十分な説明責任を果たすことが重要です。そこできちんと協議する、そういった事がきちんとなされてこなかったことが実は問題の根本にあるわけです。
それから、ストック的な公害の第二の典型は、ご存知のように石原産業のフェロシルトの投棄問題です。石原産業はフェロシルトの中に認定外の廃液を混入して、廃棄物処理法違反で刑事告訴されました。これに対して、津の地方裁判所は6月25日、石原産業四日市工場の元工場長と元環境保全部長に実刑、石原産業自身にも5000万円の罰金の有罪判決を下しました。この判決に対しては、会社への制裁は軽すぎる、活かされぬ過去の教訓、石原産業は四日市公害のいわば被告であり、戦前から公害問題にかかわっていた。それを含めて甘いなどの論評も出ました。それに対して三重県は石原産業に対して、第一には、投棄したフェロシルトの全量撤去と自社処理を行うべきである。第二には、製造工程でフェロシルトを大量に副生する硫酸法から廃棄物の少ない塩酸法に切り換えることを直ちに指導すべきであると考えます。実はフェロシルト自体はアイアンクレイなどというネーミングをし、産業廃棄物なのに素敵なラッピングをしてリサイクル製品として認定し、各地に土壌汚染を拡大した県の責任もきわめて重大です。三重県は真摯に反省し、リサイクル使用推進条例の抜本的改革をすべきです。そして、有害廃棄物の除外、厳格なチェック体制、罰則の強化に早急に取り組むべきです。

それから、これも県がからんでいる問題ですが、四日市のガス化溶融炉問題も出ています。これは、ダイオキシン対策で出された、全国的課題ですが、効果はほとんどない。操業を続ければ続けるほど、実は逆に汚染物質を出す危険性がある。そのうえ、財政的に赤字。すでに県から80億円の財政が投入され、運転すればするほど県からの投入額が増えるわけです。環境面から見ても経済面から見てもまったくメリットがないので、操業停止して各自治体による処理に戻したほうが望ましいと考えます。ただ、いますぐ出来ないなら、近隣の住民の代表や住民が推薦する専門家などを含めた調査会を立ち上げ、継続的な調査と調査結果の完全公開、その後の抜本的対応を図るべきであると提言したいと思っています。

(拡大は画像をクリック)
四日市市は実は今年の4月から中核市への移行を目指していたはずであります。旧楠町との合併を切望したのもそれとのからみだったはずです。ところが、この二つの不法投棄問題によって、しばらくは断念せざる得ない状況になりました。なぜなら中核市になると産廃行政の権限と責任が市に移るからです。当然そういった負担を市は簡単には負えないはずで、結果的に断念せざる得ないわけです。昨年7月に中核市移行後も三重県が責任を持つとの確認書が四日市市と三重県の間で調印されたと言われていますが、具体的に三重県がどこまで責任をとるのか明らかにしなければならない責任があると思います。
四日市市は被害者というだけではなく、自身の問題も抱えていると言えるわけです。市内には先ほどのような産業廃棄や不法投棄の場所がかなりたくさんあります。21ページにマップがありますが、こういう状況を全面的に公開して、市民の意見を聞きながら市として責任を取ることが大事ではないでしょうか。
イラスト:四日市および近隣の廃棄物関連施設と不法投棄現場=国土地理院地勢図を元に米屋倍夫氏作成

それからコンビナートからはいまだに化学物質が出ています。こういったストックとフローの環境リスクについては環境再生という面からきちんとした情報公開と住民参加が必要で、そういう検討の場が早急にも設けられるべきであるということです。小手先のポスターなどでごまかさず、根本的な問題を解決することが最重要だと思います。

三点目は、災害の問題です。
皆さん心配でしょうが、これはブラックボックスみたいなもので、情報が全然もれてこない。私も手を焼きましたが、多少のことを提起したいと思います。
ただ、そのまえに、四日市の石油コンビナートは災害環境という面で二つの特徴がある。一つは元々災害を受けやすい軟弱な臨海部の地盤に、石油精製・石油化学の大量の可燃物や有毒な化学物質を生産・備蓄するコンビナート企業が多数集積している。しかも、その周辺に住民の居住地域が近いところにある。したがって、災害が起きやすく、ひとたび災害が起こると災害自体が巨大化しやすいという特有の環境が形成されています。特に第一、第二コンビナートの塩浜・午起は危険性が高い。この点は新潟の柏崎原発と違うところもあリますが、同じ点は臨海部であるということと、危険物の集積地域であるという
こと。しかも二つ目の特徴はコンビナートに隣接する市街地は多くの高齢者・災害弱者が住んでいるところです。とくに塩浜地区は古い木造の密集住宅、若年層の方々は郊外へ流出、そのため市内でも高齢化率が一番高い。今年の1月段階で市内平均高齢化率が19%に対して、塩浜は27%。これがトップではなく、橋北という第二コンビナートの集落ですが29%です。というように、高齢の単身者や低所得の年金生活者が住んでいるという災害の起きやすい住環境で、そういう方々が生活を余儀なくされているわけです。問題は、そういう環境に対して、十分な防災対策がほどこされているのか。十分でないならどのような防災対策を講じるべきなのか。コンビナートについては1975年に石油コンビナート災害防止法が制定されています。現在の問題はそれに加えて東海・東南海・南海地震の巨大地震の発生といったことも県は考えるべきではないかと思います。

以上のようなことを前提にして、どのような課題と政策を提言するかということです。92ページの<A コ
ンビナート地域の災害環境の改善と住民本位の安全なまちづくり>で4点あげています。
一つは災害防止対策をする時はまず被害想定をします。発生確率です。たとえば石油タンクについては東海・東南海・南海地震が三連発でくることを前提に想定しています。それはよいのですが、そうなったときに石油タンクの火災の発生が地震三連発が350回きたら1回くらいはありえますといっているんです。確率論で言えばその1回が次で起きても不思議ではない。これはとても被害想定とは言えないものです。石油タンクは浮き蓋になっていて、地震で揺れると洩れによる火災が起こる可能性があります。これは2003年の十勝沖地震の時に出光での前例があります。2005年から新しい基準が出来ていますが、実は四日市にも漏れの危険性があるタンクが27基あるんです。いずれにせよ、危険度に関する情報開示が必要なのですが、実はここがブラックボックスなんです。これの開示が非常に重要です。
二つ目は、防災に関してはコンビナートの企業が最初の責任を持つとなっていて、特定防災施設を作り、自衛防災組織を設置することになっています。ところが、これを統括するのは県なのですが、監督指導体制はきわめて弱いんです。たとえば地震計の設置場所、設置個数、操業停止の判断基準などは各企業の裁量なんです。詳細届出の義務すらない。こんなことで、きちっとした対応が出来るとは思えません。企業とともに、行政も参加して客観的な基準づくりと情報公開をすることが大事ではないでしょうか。コンビナートは個々の企業だけではなく集団でコンビナートの地域防災計画をつくってます。いま、38社が加わっています。これには三重県や四日市も参加していますが、オブザーバー参加でして、情報の公開や共有はしているが、決定権はない。そこでなにが話されているかも企業秘密なのか内容は一切公開されていません。ましてや住民参加は一切ありません。きちっと防災するにはやはり市民・行政・企業の三者の連携が大切なことは言うまでもありません。
三つ目は、ややハードな面ですが、最近の四日市のコンビナートでは生産品目の調整や企業間の結合がだいぶ変わってきています。そういうなかで三菱化学のような遊休地とか未利用地の発生などが起こってきています。こういったものをこれまでの災害・公害を改善する環境再生の種地として位置づけて活用していく。とくに第一と第二コンビナートのところは大事です。四日市市は県とともに都市計画の中に明確に防災対策を位置づけて、ハード面の環境再生に緊急に取り組む必要があります。
四つ目は、明日から出来るという話ではありませんが、よりソフトな防災対策が必要と考えます。二次災害といいますか市街地に災害が及んだ場合は四日市市が防災対策本部をもうけることになっていますが、次善の対策としてコンビナート周辺の住人・企業・行政を含めた活動を強化することが必要です。この点に関しては若干取り組みがはじまっていて、昨年でしたか、第二コンビナートの近くの港地区の自治防災組織とコスモ石油が合同訓練をやり、その後、企業との間で防災協定を結ぼうという話が進んでいます。かつてない住民と企業との防災連携が動き出しています。これをさらに強化する必要があります。今、コンビナート周辺には3万人以上の住民がいます。で、もし実際に大きな災害が起こったとき、その人々を避難させる防災対策がありません。市もどうしらいいのかと悩んでいるらしいですが、コンビナート周辺部分の高齢化、要援護支援体制を今後もきちんとやっていくことを含めてきちっと強化することが望まれます。
地震災害はいつ起こっても不思議じゃないと言われています。短期的なもの中長期的課題を明確にしながら対応していくことが非常に重要ではないでしょうか。四日市は今そういうものの先端に立てるかの岐路に立っていると私は思います。

【提言発表 3】  岡田知弘 (地域経済部会代表・京都大学大学院経済学研究科教授)

四日市の経済支えるのは中小企業と農家  ここにカギがある

地域経済部会を代表しまして、今回、【地域内経済循環を作り出す】というテーマでまとめたことをご説明します。

四日市の臨海部にコンビナートが出来る以前、四日市には菜の花畑が広がっていて、菜の花から油を採り、その絞りかすを土に返すという自然循環の産業構造をもっていました。それがかなり切断されていった歴史をもつわけです。
地域が持続的に存在するということはどういうことかと考えますと、それはそこに住む人々の生活がお金の面で成り立っているという側面と、もう一つは自然とともに共生できる、自然あるいは物質循環が円滑に行われるという二つの要素が必要ではないかと位置づけ、そういう観点からまとめました。

前半は現状分析をまとめてスライドでご説明します。具体的には36ページから文章を取ってきています。そして後半は提言にうつっていきます。

まず、四日市の地域経済を占めるコンビナートの位置を税収でもって測ってみました。折れ線グラフが市内の税収に占める比率です。この中には会社が納める税だけではなく、コンビナートの会社に勤め四日市に住んでいる人たちの源泉徴収も入っていますのでかなり確度の高いものです。4割近くありましたが、今や12〜13%まで落ちてきているとともに、全体的な税収もかなり減ってきているということも分かります。同時に、市内の富の総生産に占める製造業・建設業などの第二次産業の比重がこの間かなり低下しています。96年の46.8%から2004年には41.4%まで落ちてきていますが、これは働く場にもあらわれてきています。
グラフ:四日市市におけるコンビナート主要18社の市税収入寄与度=四日市市財政室資料

国勢調査に基づく従業地区分による就業人口、要するに昼間四日市で働いている人の数です。職場の数を農業も含めて見ますと、第二次産業の就業者の数の比率が95年には39.8%ありましたが、2005年には33.2%と3分の1を割るところまできています。絶対数も67,000人から54,000人です。この背後にはコンビナートの再編があるわけですが、もう一つは地場産業である万古焼等々の衰退があります。しかも、製造業だけでなく非製造業の事業所も含めて90年をピークに減少局面に入っていることがわかります。産業として後退局面になっています。完全失業率がどんどん上がってきているという形につながっています。全国的には2000年〜2005年にかけてやや低くなっていくのですが、四日市は右肩上がり、2005年には4.3%です。とりわけ若い世代(10代後半から20代前半)は10%を超えています。ワーキングプアの問題が青年層に集中しているわけですが、そういう問題が四日市市でも集中してきているわけです。結果的に働く機会が少なくなってきているということから、四日市に住居を置き名古屋などに働きに行く通勤人口が増えているという傾向が増えています。90年に34,000人だった昼間流出人口が2005年に41,000人になっています。それが内陸部の住宅開発に伴いながら進んできているわけですが、住宅建設は当然、道路建設とか大型店の建設を伴います。その中で農地面積が急速に減ります。2005年、象徴的出来事が起こりました。農地面積と宅地面積が逆転したんです。しかも山林面積に関しては90年代の10年間に40平方キロメートルから30平方キロと、実に4分の1も減っているんです。その用途として宅地もありますが、大谷地の産廃施設とかゴルフ場などの転用があります。こういうことを考えますと、自然との共生、国土保全という点で言っても市街地は低いところにあります。川の上流部分で国土保全機能が落ちてきているというような、いわゆる維持可能性の危惧すべき事態が広がってきている状態になっているわけです。

市内の産業構造を見ましても製造業と農林漁業は大幅に減少し、第三次産業での働き場がぐっと増えているという傾向が強まっていますが、その現われ方を地区別に見ますと、かなりの不均等発展があります。住宅開発が進む内陸部で大幅に増加し、コンビナートに隣接している橋北、塩浜、富洲原および水沢、小山田などの農山村部で減少しています。詳しい統計は四日市市のホームページに載っていますが、平成6年10月からの10年間の人口の人口変化を見ますと、コンビナート隣接地域や中部地域・山側などで人口減少が激しいことが分かります。しかも、橋北と塩浜では高齢化率が30%に迫ろうとしています。

そして、生活の中身を見るために、1人当たりの分配所得を見ますと、四日市は企業がいっぱい来ていて豊かなまちではないかと想像されがちなんですが、三重県内で第10位で意外と低いんです。なぜこんなことになっているかと言いますと、一つは本社が東京にある企業が多いので分配所得も本社に移転してしまうのです。市内総生産に対する分配所得の歩留り率を見ますと、四日市は約70%なのに隣の桑名市は90%あります。鈴鹿も80%くらいという形で、せっかく生産された富が市外流出してしまう。
もう一つは企業所得に比べて勤労者の受け取る所得が低いということがあります。これは1人当たり計算しますから失業者が増えているとか、とくに最近は外国人労働者がかなり増えてきていることが左右しているのではないかと考えられます。因みに、2001年と2004年をとってこの間の分配所得がどう推移したのかを見ると、全体の増加を100としてどこで増えているかと言いますと、企業所得が約8割を占め、雇用者報酬は26.5%です。合わせると100になりませんが、財産所得がマイナスなんです。バブルが崩壊してしまって資産価格が落ちてしまったため、所得が実質減になりまして合わせて100になるというわけです。
それで企業所得の中を見ると、民間法人企業の増加企業率は3分の1弱に対して、農家を含む個人企業が41%を占めているんです。2000年代初頭の四日市経済を支えていたのは14,000存在していた中小企業や5000あった農家だと言えます。コンビナートの役割はこういった形でかなり小さくなっていることが分かるかと思います。
写真:地場に根をはやし奮闘している中小企業の政策的支援必要という岡田さん

次の現状分析は産業政策の問題です。
四日市は1930年代から一貫して重工業を誘致して人口を増やそうとしてきたわけです。いまも続いています。たまたま今年7月に政府が「企業立地促進法」という新しい法律を策定しました。立地してくれる企業を優遇しようという法律をまたも作ったわけですが、この第一号指定地の一つとして四日市地域が指定されました。そして、三重県も臨海部の産業立地に重点を置く政策を戦後ずっととってきました。逆に、地域経済を実際に担っている地場の中小企業や農家に対する政策はかなり弱いものになっています。さらに、農山村の農林業と臨海部の産業を連携させるという政策はこれまでなかった。これらが四日市の産業後退を引き起こす一つの原因ではないかと思われます。

そのうえでどういう政策が考えられるのか。
まずは県レベルでの政策を提言しました。三重県は企業立地こそが地域発展の原点だということで、とくにシャープの亀山工場など有名ですが、実は60億円近くの補助金を用意して、地域の税収をアップしようという政策を続けてきたわけですが、それが地域にうまく貢献しているかと言いますと、していません。これは歴史的に証明されています。こういう政策をまず転換する必要があるのではないか。とくに、分析のところで佐無田先生(金沢大学)が強調されていますが、科学技術振興政策をやってきてくれる企業の御用聞き的な研究開発をする。そのための研究機関の統合とか事業展開が行われてきているが、これを見直すことが必要です。それから、現在、「クリスタルバレー構想」という、いわゆる先端産業的なものを育成しようという政策が行われているのですが、やはりこれもほとんどが外の大企業で、ごく一部地元の製薬業などがありますが、脇役的な存在にしかすぎません。地元企業主体の政策に転換すべきではないのかというのが県レベルの提案であります。

一方、市のほうの産業政策では四日市市内の中にあるさまざまな産業と地域をつなぐ地域内経済循環を高める政策に転換してく必要があるのではないか。これまでの企業立地を優先しようとする考え方での経済政策を転換する必要があります。では、どういうところに政策対象をもっていくべきなのかということですが、現に四日市地域経済を担っているのは1万数千の中小企業と5000の農家、こういう経済主体に焦点を当てながらその経済力を高めていく政策に切り換える必要があるのではないかというのが二点目です。

次に、人々の暮らしと自然環境との共生を保障できる地域経済政策を構築する必要があるということです。
山から海にいたる多様な自然やさまざまな資源が実は賦存しています。私は四日市市の仕事を十数年やってきましたが、四日市の歴史を紐解きますと、当初は三重紡績、後の東洋紡績を興した伊藤伝七の親戚である伊藤小左衛門という人がいたりとか、かなり企業家精神の旺盛な地域なんです。そういう内発的な事業の展開を培養していくことこそが重要なポイントですし、資源をつなぎながら農山村部と臨海部との産業連関を作っていくという戦略が必要であることと、もう一つ、高齢化という問題が各地域ごとに不均等に進んでいるということはさきほど触れましたが、高齢化が進んでいる地域に住み続けることが出来るようなコミュニティビジネス−商業、流通、交通関係を含めた工夫が必要ではないかと言えます。

そして、いまのところともかぶりますが、臨海市街地と農林地域というものの経済、資源循環を繋ぐということで考えられることとして、歴史的には先ほども申し上げました菜の花畑が広がっていて、その菜の花から食用油を抽出して、絞ったあとのかすを土地に返していくという形で土地の豊度を高めていく。こういう産業の仕方の展開を明治、大正の時代にやってきたわけです。これが一気に崩れたのがコンビナートが出来てからなんです。いま、農村部で耕作放棄地が広がってきています。耕作放棄地の拡大を防ぐためにも環境保全型の商品を作ったり、景観を作っていくという点においても現代版の菜の花の再生を臨海部と農村部をつなぎながらやっていうということも一つの方策ではないかと思います。

もう一つは、地域内の産業連関を強めるために中小企業、農家への支援制度を体系的に整備するということが求められています。実は、蛍が舞っているという、四日市市が合併した旧楠町になかなかの優良企業があります。「葛{崎本店」という酒屋さんです。地域貢献を社是としています。地域で出来るお米や水を使い、雇用を確保しながらいい商品を作っていくという展開を図ってきました。そういう中小企業がたくさんあります。こういう企業をしっかり支援していく政策が必要です。
もう一つは、コンビナートに立地している企業、あるいは内陸部に東芝をはじめとする巨大企業の分工場が存在している。それらがどれだけ地域経済に波及効果をもたらしているかというと実はそれほどでもないんです。あるいは、大型店のジャスコ。イオングループの発祥の地です。こういう大型店が地域の資源、生産をしっかりと活用する。雇用をしっかりと作るなどの地域貢献を求めて行く―これをリンケージと表現していますが―ことを強める必要があります。全国的に見ればすでに中小企業振興基本条例を定めて、大企業の役割を明記している自治体がふえてきています。最初が大阪の八尾市です。大企業のコクヨが工場の閉鎖を決めたとき、条例により撤回を求め、やむをえない場合は、せめて雇用や取引先を確保して欲しいとの要求に対し、この条例によって15人の障害者の雇用が守られたという実績があります。千葉県ではイオングループに焦点を当てたと言われていますが、地域貢献を大企業に求める根拠法としてこれを活用していこうというような条例が生まれています。
これを四日市もつくりながら企業の努力、行政のコントロール、そういうものをサポートする住民の運動などを組み合わせて地域経済の再生を進めていくべきではないかと考えます。

さらには、あとの遠藤先生の都市計画・都市づくりの話とかぶりますが、四日市は中心市街地がかなり空洞化してきています。四日市の場合かなり古い時代からニュータウンが形成されて、そのあたりが一気に高齢化する段階にこようとしています。ニュータウンのオールドタウン化問題が出てきている。そこで福祉居住政策のような産業政策と福祉政策を詰めていく必要があると思うのですが、四日市の場合、
すでに地区市民センターなどが一つの基盤とし地域組織がかなりあるので、こういうところを拠点にしながら、狭くなっていく高齢者の生活範囲でもしっかり生活できる町にするための施策展開も必要だと言うことを最後に報告とさせていただきます。

【提言発表 4】  遠藤宏一 (プラン検討委員会副代表・南山大学総合政策学部教授)

FECの充実図れば四日市はモデル都市になる可能性秘める

ここでは95ページ以降をご説明します。

四日市は都市と農村が共存しているので、都市計画と農村計画を両立させなければいけないという二律背反的な課題を抱えているという問題があります。いま、岡田先生がルル説明されましたが、それぞれ特徴のある地域をどのようにして地域づくりしていくかが課題であり、しかも、それぞれをどういうように一つにまとめ、いわば都市農村共生ということをきちんと考える、あるいはそれが本当に実行できたら一つのモデルにもなる都市だとも言えるわけです。そういう課題があることをまず強調しておきたいと思います。

我々の分析としては、四日市は「分散型広域都市」というように位置づけましたが、都市計画のマスタープランでは四日市を「都市活用ゾーン」と「自然共生ゾーン」とに分けて考えていくという考え方を提示してあります。そして、これをどう実態化していくかが課題です。岡田先生指摘のように、都心部の再開発、中心市街地の人口をいかに増やし、しかも商店街を活性化させるかが課題ですし、95ページ以降で地元の豊福祐二先生(三重大学人文学部准教授)が詳しく分析されていますのでお読み下さい。とくに強調しておきたいのは、96ページで<「港」を活かすまちづくり計画を推進する>ことを提案させていただいてますが、「港がキーワード」という認識は市当局も認識されて、港をキーワードにした総合計画と言っているわけですから、問題はそれが具体的に実行されていくかということだと思います。

そして、すぐにも取り組んで欲しいことは「四日市中心市街地活性化基本計画」なるものがあるのですが、その中で中心市街地の骨格形成として、中央道路シンボル軸として、港まで延伸して、そこを一つの機軸として考えるとのことですが、いかんせん車社会の発想にとらわれすぎている。そうではなく、既存の市街地が連なっている旧港史跡から本町通り、諏訪新宿を経て旧東海道から近鉄四日市に歩いて至る動線(いまは環境軸という位置づけ)を中心軸にするべきでないのかという具体的な提案もあります。

もう一つは共同生活文化としても重要な農村域の産業環境とか景観の維持保全です。自然共生ゾーンに入れられているわけですが、ヒアリングでも農業や農村を残したいと言っても、担い手がいない後継者問題が深刻で、頭を悩ませているわけです。景観の維持保全なども農業農村政策とか労働政策と合わせた政策統合を考えていかなければならない。縦割り行政では弊害が出ると考えます。

次は、いわゆる「コンパクト・タウン」ですが、四日市の場合、とくに地域構成に合わせてコンパクト・タウンづくりを目指したほうがいいんではないか、というコメントです。臨海部・都心や西部丘陵地、後背農山村地域で多様性、不均等性が目立ちます。それぞれの地域特性にあわせた町づくり・村づくりが必要だろうということです。これも四日市が進めています都市計画のマスタープランで、「地域・地区構想づくり」の推進が掲げられていて、実際に進められていますが、まだ十分に市民に浸透してなく、住民主体で作り上げていくという仕掛けづくりがまだうまくいっていません。例えば「まちづくりスタッフ」などをつくり派遣してみてもいいのではないかとの提案もされています。こういうコンパクト・タウン構想も考える必要があるのではないかというのがここでの提案です。

それと関係しますが、いわゆる都市内分権と地域自治組織制度を作って住民自治を強化するという視点が大事です。地域自治組織とは合併の合意取り付けのためにつくられた側面もあるのですが、それを逆手にとって住民参加の町づくりや村づくりの基軸にできないだろうかということが考えられています。四日市市はこのへんを真剣に考えたほうがいいのではないかと提案しています。とくに地域自治組織は新地方自治法による地域自治区の制度の導入を考えたらどうかと考えました。合併した旧楠町については総合支所が作られましたが、それも改組した上で市内23ヵ所の地区市民センターに抜本的な改組、権限拡充を行って、当面そこをとっかかりにして、地域振興、まちづくりなどに動けばいい。あるいはまちづくり予算も移すことも考えられたほうがいいのではないでしょうか。「地域協議会」も新潟県上越市のように準公選制の導入なども検討されたらいいと考えます。

もうひとつは、<FECの地域内自給自足(圏)の形成>です。これは内橋克人さんが著書『もうひとつの日本は可能だ』で、これからの日本の再構成を提案されてますが、私はこれは地域でこそ重要だと思っています。いわゆる四日市のように都市と農村が混在している地域では、地域内産業や環境循環を考えるうえで四日市はモデルになる可能性を秘めている。少なくとも足元の地域から、食糧・エネルギー・人を慈しむ(FEC)の自給内自足圏の確立。結局、食糧という問題は地球環境時代に非常に大きな課題になるのは眼に見えておりますが、同時にエネルギーもそうです。さらに、いわゆるケア、地域福祉もそうです。少なくともこういったものは他の地域が地震で駄目になっても四日市はもったよ、と言えるような理念を掲げて追求されていってもいいのではないかと思います。そういう意味で、都市と農村は、例えば食糧は地産地消と言われてるような仕組みを四日市の中につくるといったことをぜひ構想し、実行していただきたいと考えます。以上が都市計画や地域計画にかかわるところで、都市内分権、行財政制度の話しも踏み込んであります。

98ページからは<行政は独自にコンビナート・臨海部の総合政策を持つ>ということで、独自政策をきちんと持つべきだという提案です。コンビナートは防災を企業にまかされているとか、遊休地などの未利用地の実態がわからないとか、企業との情報交換は始まったものの、四日市石油化学コンビナートは第一章でも書きましたが、発端は国策、旧海軍燃料廠の払い下げ問題から始まったのです。しかし、その後は実はなしくづし的に海岸を埋め立て、拡大してきたわけです。その点では水島とか堺泉北などは県が主体になって開発計画を立てて、それでああいう問題を起したところと大きな違いがあるのは、コンビナート地域というのは行政の側から見ると、ブラックボックスになっています。今日まで三重県、四日市市、四日市港管理組合のどこも自らが開発主体であり、責任主体であるという認識をほとんど持ってこなかったと言い切ってもいいと思います。似たようなところには名古屋南部コンビナートがそうで、ここも名古屋港管理組合をつくっているのですが、ここに行っても県と市のどこに行っても何が起こっているのか実態が全然つかめません。これまで2度ほど調査をしましたが、他のコンビナート調査とまったく違う経験をしました。こういう状況は克服しなければなりません。そのためには異論が出るでしょうが、やはり、四日市市がコンビナート開発の責任主体になり、政策を持つべきであります。歴史的にたどっても戦前から大四日市構想というのがはじまっていまして、四日市の地方政治的な位置をふくめて、例えば三重県の政治行政の中で四日市というのは大きな比重を占めているところですので、基本的にコンビナート形成の開発責任を持っているだろうと思うわけです。ましてや中核市に移行すれば廃棄物、環境行政、都市計画行政の多くの権限が移行するわけだし、コンビナート対策や環境再生事業に対して第一次責任主体としての自覚が必要です。

そういう観点から、以下のように具体的にご提案したいのですが、一つは、四日市コンビナートや臨海部地区の現状と計画の実態把握と情報公開が必要です。たとえば水島は報告書を毎年きちんと出されています。三重県も四日市もこういうものは出していません。こういうことがまず出発点だと思います。
第二は、その上で企業の臨海地、遊休地、未利用地の実態を把握して、都市計画の中に組み込むようなまちづくりが大切と考えます。

四日市港の管理主体についてですが、さきほども触れましたように、「沿岸域」という新しい概念の提案がありますから、いわゆる臨海部というだけではなく沿岸域として水際線をはさみ、海と陸にまたがり一体的に扱かわれるべき空間という視点で港湾計画や都市計画を総合的に考えてみることが必要です。
そして、もう一つは四日市は財政負担の問題から四日市港管理組合を重荷に感じているという実態が分かってきました。できれば撤退まではできないまでも、財政負担は県にもってもらおうと思っているようですが、きちっと責任主体として四日市港のまちづくりとか環境再生の視点から再生をどうするか考えるべきで、実質的な関与を弱めてはまずいのではないかというのが我々の提案です。

(拡大は画像をクリック)
もう一つは<高松海岸・干潟の自然環境保全>の問題です。これは、ここ数年間で感じたことですが、この問題に対する市民の関心はあまり高くなく、それよりも、スーパー中枢港湾に指定されたことのほうが大歓迎というニュアンスのほうが強かったように思われます。つまり、保全運動をしている方々が多少孤立していた傾向があります。しかし、ここが無くなるとどうなるか? この問題に取り組んでおられるグループが出されたビラのコピーを46ページに入れさせてもらいましたが、海の環境再生をするならまず、今残っている所からちゃんと残すことから始めることが重要だと思います。これからの町づくりの中で、こういうしっかりした取り組みが行われているところに関心をはらって、しっかり広げていくということが必要です。
イラスト:高松干潟を守ろう会・川越町自然と環境を考える会発行ポスター「こんなもんいらん! 臨港道路霞4号幹線計画」より

次に財政問題です。
まちづくり・環境再生はお金がいります。四日市は下水道などいろんな問題をかかえていますが、「都市環境再生基金」なるものを創設してはどうかという提案です。これは、ある意味で実現性の高いものと考えます。
具体的には、コンビナート企業に対する超過課税の実施、人口30万を超えたことによる事業所税の収入が特例で5年先ではありますが30億円見込まれます。市税収入の5%という大きな財源です。こういうものをちゃんと環境再生まちづくり資金にあてる。これは目的税であり都市環境整備のために使うことになっているのでちゃんと活用できるように今から考えておくべきです。中核市への移行にともない、県が実施してきました産業廃棄物税が導入されますから、三重県がやってる産業廃棄物税などは四日市市税として独自に構想されてもいいのではないかという提案です。

都市再生事業と主体形成の提案です。
都市自治の確立とコミュニティ再生では、一般的な呼びかけとして提案していますが、ここでは時間の関係で触れません。ただ、強調しておきたいのは、今回を契機に「四日市まちづくり市民会議」が作られたことは大変喜ばしいことです。3年間かけてきた検討委員会のなかから地元を中心として出来ました。この市民会議が今後のまちづくりの軸として大きく展開していただきたいという期待を書きました。その場合、たとえば行政に働きかけたり、経済界にも呼びかけるのが大切です。市役所の労働組合や教職員組織との連携も大事です。

とくに申し上げたいのは、102ページに書きました<全国に、そして世界に開かれた運動と取り組み>ということです。四日市の環境再生、都市再生は単に地元の問題ではありません。目下、川崎や水島や西淀川などのようにいろいろな取り組みをしているところにとどまらず、四日市での取り組みの成否は同じように取り組んでいるところに示唆を与えるんだという自覚をもっていただきたい。そして、この提案には若い世代が沢山参加してくれています。ぜひこの若い世代との交流を深めたり、交流を大切にして活かしていただきたいということです。

そして、最後に<「四日市学」の確立について>です。
公害を知らない世代、語り部の高齢化問題などありますが、その中で「四日市学」は104ページで触れましたように3つの視点が必要と考えます。すなわち、「公害問題は被害に始まってその全面救済、健康の復元がなければ完結しないわけですから、この視点を欠いては四日市学は成り立たない」ということが第一です。第二に「公害は政治経済の社会システムの問題。単なる公害防止技術だけではなく市民の運動などがあってはじめて克服できるということをアジア諸国にも伝えねばならない」ということです。そして三点目が「都市、地域を全体として総括して、都市再生などに知的参加をしていく環境教育を育まなければ四日市学は成立しないだろう」ということです。

ぜひともこの地域から真の四日市学が出来上がっていくことを期待し、今回我々がまとめた『提言』が具体的に都市再生への一歩となり、四日市の方々に少しでもお役に立てば、この報告書作成に携わったすべてのものにとってこの上ない喜びです。                            (つづく)
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