2006 08/15 更新分

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 『アジア環境白書06/07』刊行シンポ<上>

◆“執筆者にアジアの研究者も加わり質・量とも充実”◆

▼『アジア環境白書06/07』刊行シンポ▼
淡路JEC理事長アピール「多くの人の手に」
JECを母体にした『アジア環境白書』研究会編集委員会による『アジア環境白書2006/07』の刊行記念シンポジウムが06年6月24日午後3時から、東京・本郷の東京大学農学部1号館で約90人の聴衆を集めて開かれました。10月に刊行される『アジア環境白書』は第4弾にあたり、執筆したコアメンバーによる報告とパネルディスカッションが行なわれました。   
【文責=司 加人】
シンポジウムは編集事務局長の井上真さん(東京大学農学部教授)の司会で進められ、冒頭に編集代表の一人、淡路剛久さん(JEC理事長/立教大学教授)が「JECの活動と『アジア環境白書』刊行の意義」と題して概要次のような開会あいさつを行ないました。
写真:約90人の聴衆が『アジア環境白書』執筆者たちの報告に耳を傾けた

▼開会あいさつ:淡路剛久(編集代表/JEC理事長)

「JECの活動と『アジア環境白書』刊行の意義」
1990年代に入り、日本の環境問題はアジアとの関係で解かないと解けない問題になり、逆にアジアで起こった環境問題は日本とのリンケージの中で考えられなければ解けない存在になってきていることに加えて、顕在化してきた地球環境問題を解くためにもアジアからということで、91年に初の「アジア環境会議」が開催されました。そして、94年に京都で開かれた会議で、それまでやっていた各国・各地域が問題を出し合って議論するということだけでなくて、アジアの環境問題の実態がどうなっているのか調査・研究をしよう。そして、その結果を分析し研究することが必要ではないかということで合意され、日本が中心になってまとめていこうということで、『アジア環境白書』の刊行につながったわけです。
10月に刊行される「2006/07年版」は第T部テーマ編、第U部地域・各国編、第V部データ解説編という大構成は変わっていませんが、当然のことながら幅も深さもさらに出たと自負しています。
スローガンを見ても、第1巻(97/98年版)では「地球環境保全はアジアから!」、第2巻(2000/01年版)では「21世紀アジアの環境協力を求めて」、第3巻(2003/04年版)では「アジアから地球環境「協治」の構築を目指して」、そして今回の第4巻は「アジア環境協力を一歩進めるために」と変化してきており、横に広がり、深みも深化してきていることがお分りいただけると思います。
執筆陣も広がってきています。JECの研究者だけでなく、アジア各国の研究者の協力をいただいたほか、NGOの専門家の方々にご協力いただいていることがそれを現しています。
これが『アジア環境白書2006/07』!

間もなく刊行される『アジア環境白書2006/07』のカバー(試作品)。日本環境会議/『アジア環境白書』編集委員会によって編集され、第T部 テーマ編、第U部 地域・各国編、第V部 データ解説編の3部構成。A5版、317頁、¥2800+税。
*注文・問い合わせ先*
東洋経済新報社/出版局編集第2部(担当:佐藤 敬)
〒103−8345 東京都中央区日本橋本石町1−2−1 TEL 03−3246−5634 FAX 03−3231−0906
きょうのシンポジウムは第4巻のハイライトをご紹介するのはもちろんですが、単に実態を掌握し、分析しただけでは現実問題の解決にならないわけで、それらを踏まえて「動く」ことが肝要で、例えば「アジア環境協力機構(AECO)」の設立や、一方、もう一歩進めるためには何が必要かなどについて意見交換をしていただきます。そして、ご来場の方々はもとより、より多くの方々に『アジア環境白書20006/07』をお買い求めいただきたいと思います。
写真:『アジア環境白書』は深化したと呼びかける淡路剛久さん

▼報告1:小島道一(編集責任/アジア経済研究所新領域研究センター)

「アジア環境協力を一歩進めるために―本書の内容総括およびE-wasteの現状から」
はじめに、『アジア環境白書』の概要をご紹介し、後半でE-waste―電子電気廃棄物の現状についてお話したいと思います。
淡路先生からもご紹介いただいたように、「2006/07年版」はV部構成をとっています。テーマ編では、「政府開発援助、国際開発金融と環境」を第1章で、「公害被害者の救済をめざして」を第2章で、そして第3章で「急がれるE-wasteの適切な処理システムの確立」をまとめています。
第U部の地域・各国編では、はじめてシンガポール、北朝鮮、バングラデシュを取り上げ、極東ロシアをより詳しく取り上げました。とくに第3部のデータ解説編は前巻に比べテーマを厳選しています。
写真:白書の内容総括とE-wasteの問題指摘をする小島道一さん

次にE-wasteについてお話します。E-wasteというのは、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、ビデオレコーダーなど家電製品、コンピューター、携帯電話などを総称しています。
問題が顕在化してきた背景には消費が拡大し、これにともない廃棄される量も拡大してきたという単純明快なものです。とくに、携帯電話は1個体としては小さいのですが、物量的にまとまっており、テレビなどとともに大量に捨てられる恐れがあります。どのくらい消費されているかといいますと、2004年の実績ですがアジア10ヵ国でカラーテレビが5124万台、携帯電話が2億5020万台と推定されています。

問題は大きく分けて2つあります。1つは、回収されずに捨てられていること。携帯電話ではとくにその傾向が顕著です。もう1つは、不適切なリサイクルが行なわれているということです。
これらの問題指摘のきっかけは、アメリカのNGOの指摘に端を発しています。2002年から報告書が出されています。アメリカからコンピューターや家電製品が中国、インド、パキスタンなどに輸出されてはいるが、これが汚染を引き起こしながらリサイクルされている。これは非常に問題だという指摘です。
しかし、じょじょにコンピューターメーカーのデル社とNGOの共同作業で回収が行なわれたり、複写機メーカーの富士ゼロックスなどがタイに解体工場を作り、ここに集めて解体→リサイクルなどの取り組みも始まっています。
写真:洗濯機の底の部分を解体し、金属とプラスチックに分ける子供たち
=06年1月、フィリピン・セブのジャンクショップにて【小島道一さん撮影】

とは言え、解決への障害がいくつかあるのも事実です。拡大生産者責任(EPR)を適用するのが難しいことが最大の理由です。そして―
  1. 生産者を特定できない。……例:小規模店の組み立てたコンピューター、模造品、密輸品、修理・改造されたもの。
  2. 中古市場の存在。
  3. 手作業による解体が経済的に行なうことができ、きちんとした工場ができても、集荷が難しい。………集荷量に応じて補助金を出す仕組みでは、集荷量の過大報告がされる可能性がある。
―などがあげられます。

もう1つ考えなければならないのは中古品貿易量の拡大という現実です。日本からも100万台近くのコンピューター、300万台のテレビが輸出されているといわれています。
このような現実を踏まえて、適切な管理をどのようにするかという課題が残ります。整理すると、次のような点が上げられます―
  1. より詳細な現状把握が必要……発生量、流通や解体の実態について十分な調査が行なわれていない。ERPの適用可能性についても実証的な検証が必要。
  2. ボランタリーなプログラムの推進……製造業による取り組み。政府による回収キャンペーン(タイやマレーシア、香港などでの携帯電話のバッテリーの回収など)
  3. 汚染が生じるようなリサイクルの取締りの強化。
  4. E-wasteの越境移動の取締りの強化。
この問題をめぐっては、さまざまな国際会議が開催されていますが、いくつかの会議への出席を通じて感じたことは、国レベルではなかなか信頼し合った話し合いや情報交換ができないということです。2回3回と回を重ねることによって本音が話せるわけですが、日本の場合、2年3年で担当役人が変わってしまうので意思の疎通が難しいという指摘があります。
そして、実態調査をしっかりやって実態を掌握しないと、イメージだけで会議をしたのでは真の解決策は見出せません。会議そのものが目的になってしまって、どうしたら問題解決ができるのかということを見失ってしまっている。そういう意味からすると、長期にわたって連携できるNGOと研究者のネットワークの構築などが問題解決には重要と考えます。

▼報告2:森 晶寿(京都大学助教授)

「環境社会配慮と環境ODAはどこまで進んだのか?」
第T部第1章 政府開発援助・国際開発金融と環境をメコンウォッチの松本さん初め他の方々と担当しました。お気づきのように、テーマを2本立てにしました。いままではODA1本の考え方でしたが、現状を考えた時、果たしてそれでいいのだろうかと思い、こうしたわけです。この2つを同時に捉えて、世界経済にどう寄与し、地域環境にどう寄与してきたかを見直そうという発想です。

さて、世界的に国際開発金融と環境という視点から見ますと、大きく変化したのが90年代です。それは、ODAや国際開発金融の環境破壊に対する批判や発展途上国の環境問題への認識の変化などから「環境の主流化」という動きが顕著になりました。その結果、プロジェクトが自然や社会環境に悪影響を及ぼさないような制度を構築したり、すでに生じている環境破壊や環境汚染を改善し、途上国の持続可能な発展を促すそうということが重要になってきました。
その先駆けは世界銀行でした。80年代のアマゾン開発計画などへの批判から、80年代後半以降、環境アセスメント、非自発的住民移転など10の政策を盛り込んだ環境社会配慮政策を策定したり、インドのナルマダムの専門家調査の結果、政策の不遵守の指摘やワッペンハウス報告と言って、政策を守らせる機能としてインスぺクション・パネルを理事会直属にさせ、実際に機能させることにしたり、世銀だけでなくアジア開発銀行(ADB)や国際金融公社(IFC)にも環境社会配慮政策と政策遵守の機能を設けました。
写真:『アジア環境白書』はアジアの環境問題の対話の手段としての存在価値があると説く森 晶寿さん

その考え方は、ガイドラインという形で日本にも導入されましたが、考え方だけでなく、実際に具体的な条件においてどうだったかということを検討することが行なわれました。
その1つがミンダナオ石炭火力発電所計画です。2003年10月14日付けで現地住民組織などがJBIC(国際協力銀行)に「温排水、住民移転、農漁業への影響、限定的な住民協議」などについて書簡を提出しました。ところが、JBICは同年12月1日に住民組織となんら協議せずに融資を決定しています。
もう1つはサハリンU石油・天然ガス開発計画です。800キロメートルの地上パイプラインとタンカーによって日本へ輸送するという計画で、JBICが2000億円の融資を検討中ということですが、漁業への影響ですとか、先住民族の生活環境の変化、サケが遡上する1000本余の河川をパイプラインが横断すること、活断層、コククジラやオオワシの生息、さらには油の流出事故など諸々の問題をかかえているため、環境フォーラムの開催が必要ということで、10回開催されました。しかし、10回のうち9回は環境アセスメント報告書の補遺版が未完成である上に、様々な影響があるはずなのですがスコープが日本への影響に限定されてしまっているというのが実情です。

そういうことで、まとめてみますと現地の住民の人たちへの影響など確かに一定の効果はありますが、例えばカンボジア国道一号線改修事業を例にあげますと、移転補償には不安材料がありました。住民への土地補償がなく、しかも警察が同行しての「同意取付け」をしたりしています。
要するに、どこまで機能しているかということをつぶさに精査すると、十分ではないと言わざるをえません。
このように環境ODAというレベルで見ますと、次の“3つの条件”があると思います。その1つは「受取国と供与国の間での環境問題解決への共通の関心=Concern」、2つ目は「受取国・供与国とも援助を他目的の実現のために転用する誘因の低さ=Contracting」、そして3つ目が「受取国・供与国の環境能力の高さ=Capacity」などです。いわば“3つのC”ともいえます。
そういう意味では、90年代後半はこの3つの条件が満たされることが多い稀な(!?)時期だったのではないかと思います(笑い)。

そこで、2000年代の動向に話しを進めますと、さきほど、申し上げた90年代後半の“3つのC”が満たされた、いわば“幸福な結婚”時代は終りを告げているのではないかと言わざるを得ません。それは、受取国・供与国とも経済インフラ重視へ回帰していること、中国やタイに代表されるかつての受取国が開発金融機関を通じて周辺国の自然・社会環境を破壊していること、さらに供与国の気候変動問題・生物多様性への関心が高まっていることなどがその理由としてあげられます。
言い換えれば、90年代前半以前の状況に逆戻りする懸念があるということです。

以上の諸点を振り返った結果、「3つの提言」をしたいと思います。
「提言1」は、実効力ある環境配慮政策にするということです。このためには、形式的な情報公開と住民協議でなく、住民の懸念を意思決定にどう反映したか公表すること。補償は内政問題とせず、ガイドラインを遵守できない補償計画では融資や支援をしない。すなわち援助・融資する側の権利とすること。それと、ガイドラインは問題を抱える人たちが使いやすいように支援することが必要です。

「提言2」は中国の環境境のODAの効果的な活用ということです。アジアの受取国・供与国が環境経済や社会などともに関心を持つ資源節約型社会など環境問題への重点的支援が行なわれ、問題の抜本的解決につながるかどうかです。

そして、「提言3」は後段で討議されるであろう「東アジア環境共同体」にむけた構想と方向です。OECD加盟国で実現した環境配慮政策の実効性を担保に、非OECD加盟アジア諸国の共通の環境配慮政策が取られること。民間金融機関への環境・社会ガイドラインが確立されることです。
経済成長下での国際環境条約の批准・履行など抜本的な環境改善、環境政策統合などによる社会改革だけでは不十分です。様々な主体による科学的・学術的知見の共有とそれに基づいた対話が必要です。

この「対話」のための1つの有力な手段として『アジア環境白書』は重要な位置を占めると考えるものです。
写真:環境円借款による環境低利融資制度を活用して実施された家具組立工場でのクリーナープロダクション。塗装方法の変更により有機溶剤の使用をやめるとともに塗装粉末の回収を行えるようにしたことで、大気汚染の削減,労働環境の改善、塗装費用の削減を実現できた
=04年8月 【森 晶寿さん撮影】

▼報告3:除本理史(東京経済大学助教授)

「公害被害者の救済を進める条件は何か?」
第T部第2章 「公害被害者の救済を目指して」の概要を報告させていただきます。

この章の構成は、1つは韓国と中国の2カ国の事例ですが、いろいろな問題がある中でNGOが支援をしながら被害者が立ち上がりつつある、表面に出つつあるという状況について報告します。
2つ目は、ブキメラ(マレーシア)とボパール(インド)の事例。ともに80年代に大きな産業公害があったわけですが、これらが被害者救済に向けた動きの中でどのような問題があるのかということを報告します。
そして最後に、救済を前進させるための条件はなんだろうか? ということで司法的救済という問題と長期的な被害者のケアの問題について報告します。
写真:韓国、中国では公害被害者が立ち上がりつつあると指摘する除本理史さん

まず、韓国の状況ですが、韓国では騒音公害を中心に公害被害者救済が前進しつつあるという状況になっています。どのような例があるかと言いますと、1つは金浦空港の騒音公害訴訟で、2005年1月に最高裁で原告の請求を認容する判決が出たこととか、軍事公害では梅香里(メヒャンニ)の射爆場騒音訴訟で最高裁で勝訴し、翌年、射爆場が閉鎖されるというような事態になっています。
それから、まだ判決は出ていませんが、準備が進んでいる訴訟として産業公害と自動車排ガス汚染の2つがあります。産業公害は製鉄会社の大気汚染で、麗水工業団地に立地している韓国最大の製鉄会社POSCOの光陽製鉄所からの大気汚染による大規模な公害被害問題であり、一方、ソウルの自動車排ガス汚染は2004年10月に弁護士、医師、科学者などの専門家による大気汚染訴訟推進団が結成されています。

こういうような公害訴訟が進んでいる背景としては環境NGOが支援をしていることがあげられます。代表的なケースとしては、「環境運動連合」の環境法律センターです。1991年4月に環境運動連合の前身である公害追放運動連合の環境法律相談室として開設されました。「緑色連合(グリーン・コリア)」の環境訴訟センターが1995年5月創立されました。そして進歩的弁護士団体「民主社会のための弁護士の集まり」(民団)の結成などです。

一方、中国では権利意識が高まっている中で、NGOによる訴訟支援が進んでいます。具体例を見ますと、環境汚染問題に起因する苦情等の件数が増加しています。まず「投書」が1989〜96年は10万弱だったのが97年から急増し、99年には20万を越え、2003年には50万を突破しています。行政部門への「訪問」も5万強だったのが増加傾向にあります。人々の間に環境汚染問題を積極的にイシュウ化していこうという動きが統計上も分かります。
さらに中国政法大学内に設立されたNGO「公害被害者法律援助センター」(CLAPV)の法律支援件数は99年11月〜05年3月で74件、無料電話相談については開始以来5年余りで少なくとも2000件に上っています。

以上のように、東アジア地域では環境NGOの支援のもとで公害訴訟が進んでいるわけですが、東南アジアに目を転じても1980年代に大きな産業公害事件が起きており、2つの事件がその後どうなっているかという報告も『アジア環境白書』でしています。
その概要を説明しますと、まずインドのボパールで1984年にユニオン・カーバイド社(UCC)の農薬工場が爆発事故を起こし、有毒ガスによる健康被害が起こりました。事故後も汚染が放置された結果、眼や心肺機能の低下など様々な後遺症が起こり、最近ではガンでの死亡率が増大してきていることや次世代への影響も問題化しています。こういう中で2004年に事件後20周年となったわけですが、この年、裁判所から次の3つの決定がありました。
  1. アメリカの控訴裁判所が被害者のUCCに対する環境回復の請求は時効ではない=3月
  2. インドの最高裁が地下水汚染を認め、州政府に対して住民に飲み水を供給するよう命じた=5月
  3. 被害者2団体が提起した訴訟で、最高裁判所がインド政府に対し、約57万人の被害者・家族に追加補償として150億ルピー(約376億円)を支払うよう命じた=7月 
これは、1989年、インド政府とUCCの間に和解が成立し、4億7000万ドルの支払いがなされたが、被害者に支払われたのはその一部にとどまったため、その残額および利子を支払うよう命じられたわけです。
このように、ボパールでは汚染の放置や被害の放置が進んでいたのですが、若干の被害救済が見られるようになってきました。
写真:ボパール事件20周年の集会風景
=04年12月、ボパールで。 【谷 洋一さん撮影】

次に、マレーシアのブキメラで日本企業が関係するARE 社が放射性物質トリウムを含む廃棄物を工場裏手の池に捨てていたという事件です。周辺住民に血中の鉛濃度の増加、流産・死産の増加、白血球の減少、先天性障害児などの被害などの健康被害が出たわけです。これが訴訟になり、1992年にイポー高裁で住民側が勝訴したのですが、翌91年に最高裁で住民側が逆転敗訴してしまいました。しかし、ARE社は94年1月に工場を閉鎖することを明らかにし、その後、工場の解体工事が始まったもの中断。最近、再開の見通しが立ち、2010年までに解体され、そして放射性物質は州政府管理の永久貯蔵所へ貯蔵し、ARE社から住民団体にある種の解決金という形で約1650万円が支払われ、これが住民の奨学金として活用されています。これらについても『アジア環境白書』では詳述しています。

以上のようなアジア地域における実例を踏まえて、環境汚染被害者、公害被害者の司法的救済を前進させるための条件はなんだろうということに話しを移したいと思います。
2003年9月に日本環境会議の滋賀大会が開かれました。そこで、司法的救済を前進させるための条件はなんだろうということが議論され、中国・韓国からの報告などもいただきながら、以下の6つの条件が確認されました。
  1. 裁判を闘う被害者
  2. 被害者とともに不屈に徹底的に闘う弁護士集団
  3. 闘いに協力する専門家集団
  4. 物心両面から被害者を支える支援集団
  5. 被害救済を求めるマスコミと広範な世論
  6. 被害者の声に真剣に耳を傾ける可能性を持った裁判所・裁判官
―で、こういうような条件がとくに韓国では整ってきているし、中国でもそういう方向になりつつあるということが確認されました。
写真:被害者の司法的救済が熱心に討議されたJEC滋賀大会・公害被害救済分科会
=03年9月15日、滋賀大学で。【除本理史さん撮影】

それだけでなく、不可逆的な健康被害を受けた患者さんがいるかぎり、これらの環境汚染事件は終わらないわけで、被害者への長期的なケアが重要になってきています。
その実例として、ボパールでは1995年に設立されたサムバブナ・トラストという支援団体が生存者に対する無料診療と健康状態のチェック、調査研究などに努めています。また、ブキメラ(ブキメラ医薬援助基金・日本)による医薬援助カンパを集めて、そのお金を被害者に渡し続けるという活動が地道に行なわれています。その中心は当時の三菱化成労働者だった村田和子氏らです。

最後に、以下の2点をまとめとします。
  1. 司法的救済を前進させるためには被害者が立ち上がれるための条件整備と、そのためのNGOによる支援が重要。
  2. 被害者の長期的ケアが重要であり、その条件整備が必要。

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