2006 07/10 更新分

ルポ メニューへ

四日市環境再生「まちづくり市民講座」
【報告 1】 佐無田 光 (金沢大学助教授・政策研究会)
「環境再生と地域経済の再生に向けて」
きょうお話したいことは大きく分けて次の4項目です。
(1)「ポスト工業化」という時代認識について (2)日本の大都市圏臨海部 (3)環境再生への社会的投資―金沢の文化的投資を事例に (4)四日市環境再生まちづくりプランづくりに向けて……
 
まず、「ポスト工業化」という時代認識について触れておきます。地域再生とか都市再生とか、いま盛んに<再生>の時代と言われていますが、一体何を再生するのか? このことは、時代の転換点に関する捉え方に関わります。1つは、産業構造の転換だけで捉える狭い捉え方です。従来の基軸産業が衰退してきたので、新しい成長産業の誘致、育成政策が必要とされるということになります。もう1つは、社会発展の枠組みの転換という視点で、「豊かさ」のあり方自体を問い直すことにつながります。
写真:いまなお産業の回復に主眼を置く日本の現状は問題と指摘する佐無田さん

「ポスト工業化」という言葉は、いまから30年余り前、アメリカの社会学者、ダニエル・ベルが著書『ポスト工業社会の到来』(1973年)で提起した言葉に由来します。
ベルは、サービス経済化と知識技術の中心性を指摘したわけですが、それだけをポスト工業社会の特徴と言っていたわけではありません。財貨の生産が至上命題であった工業社会では、製造機能を担う企業・産業が社会の中心に位置してきました。これに対して、ポスト工業社会は、保健、教育、レクリエーション、芸術などサービスと楽しみを尺度とする生活の質によって定義されるとベルは述べています。
ものが行き渡った段階では、それ以上商品を増やしても、混雑や副作用を増すだけで問題を解決しません。むしろ社会的必要にこたえるために既存のモノを有効に活かす「システム」を設計することが課題であって、ここに知的技術が活用されるとベルは見ています。つまりポスト工業化の段階とは、技術評価と社会制度の進歩によって社会の豊かさをつくりだす時代だといえます。
これに対し、日本の現状を見ますと、依然として産業をなんとか回復・誘致していこう、それを成し遂げればすべて解決するという考え方が根強いところに根本的な問題があるのではないか――これが、『地域再生の環境学』(第6章)を使って本日の報告で伝えたい基本的メッセージです。
 
次に、グローバル経済のなかでの日本経済がどういう位置にあるのかということを確認しておきたいと思います。
1990年代には製造業のリストラとアジア展開が進みました。しかし、その後日本経済は、欧米と似たポスト工業化段階に全面的に移行するというよりも、「ものづくりの再生」という形で復活を遂げてきました。自動車、電機、そして素材産業の復興が景気を牽引し、先端技術開発生産工場(とくに中部圏)と、アジア向け国内量産拠点(九州、中国地方を中心に)に国内投資が回帰しています。
サービス産業の比重が高まり、東京を中心に投資重視経済の性格が強まっているのも確かですが、グローバル経済のなかで日本は、「世界の工場」となったアジアを背景に、高付加価値工業製品の供給拠点として国際分業を担うような再編(=高度工業化あるいは再工業化)も遂げつつあり、単純なポスト工業化と言えないところに問題の複雑さがあります。
 
とはいえ、産業再編の過程で、既存の工業はかなり整理統合され、製造業に依存できなくなった地域というのも非常に多いわけです。そうした地域で「地域再生」が課題となっています。
 
日本の工業地帯は、臨海部とくに大都市圏臨海部に集中してきました。現在、こうした臨海部工業地域の再編がいくつかのパターンで進められています。
図の<流れ1>をご参照いただきたいのですが、臨海部再編の主要な動因となっているのは、一つは「企業再編」、もう一つは「埋立地拡大」で、そこから発生してくる遊休地、低未利用地の存在が再編の一つのきっかけとなっています。
 
「企業再編」については分けて考える必要があります。事業が「集約」している地区、かろうじて「継続」している地区、「縮小」している地区、そして「撤退」している地区です。事業集約地区としては君津、名古屋、福山、鹿島、水島、大分など。周南、四日市は一部を除いて概ね事業継続地区。これに対し縮小地区は、千葉、川崎、北九州などが鉄鋼業を中心に縮小され、堺や釜石の一部では本格的に撤退が進んでいます。縮小・撤退地区を中心に、遊休地、低利用地が発生しています。
 
一方で依然として埋立地が拡大され、広大な未利用地が発生しています。埋立地拡大の理由は用地が必要だからでなく、モノが出てくるから埋め立てしているというのが実情です。一つは廃棄物の最終処分、もう一つは港湾の浚渫土砂です。
なぜ港湾浚渫土砂がたくさん出てくるかというと、コンテナ船が世界的に大型化され、大型コンテナ船が使える港に貨物量が集中するという予測があります。港湾間競争のためには深い港にしなければならないとして、大深度港湾を掘り出すために大量の土砂が出ているわけです。
ところが、どこでも大深度港湾にしてコンテナターミナルを造ってうまくいくはずがありません。利用は一箇所に集中するわけですから。例えば、東京港と横浜港があるのにその間に造った川崎コンテナターミナルは経営破綻しました。そういう意味で、全国的に港湾過剰なのではないか、という状況にあります。
 
次に、遊休地を何に使っているかということに話を移します。図の<流れ2>に示しましたが、立地条件のよいところから順番に、(1)大型集客施設 (2)都市的再開発(大型店・マンション) (3)工業団地化(サイエンスパーク) (4)廃棄物処理・リサイクル施設の立地 (5)公園(スポーツ施設)・自然再生、などの動きがあります。
 
これらの動きは、実は企業の事業再編と密接に連動しています。遊休地を積極的に都市的再開発に利用しようとしているのは、鉄鋼会社などの不動産事業部門です。しかし、都市再開発をしようとしても、それまで工業地域だったために人が集まるような交通手段が足りず周囲の環境条件も悪いので、企業単独で再開発することは稀で、自治体の計画として、道路や公園など都市インフラの整備と一体になって進められています。それも、大型集客施設の立地などはほとんどうまくいっておらず、郊外型大型店かマンションというのが実際の内容です。
 
都市的再開発するには立地条件が悪かったり、不動産事業部門を持っていない企業では、他社に売却したり工場内に工業団地を造ったり、または行政に売却して工業団地化する動きも多いです。臨海部に新たに立地してくる事業所というのは、どちらかというと都市部では立地を嫌われるリスクの大きな事業、動物実験をしたりするバイオ関連とか、廃棄物処理やリサイクル施設です。
廃棄物処理・リサイクル施設については、鉄鋼会社などのエンジニアリング部門がガス化溶融炉などの新技術を実験的に導入する動きとも連動しています。また、事業再編で周辺から原燃料を提供する事業者がいなくなったり、コスト高になったことに対して、廃棄物資源で原燃料を補おうとする動きが鉄鋼・非鉄製錬・石油化学企業にあって、リサイクル事業の誘引となっています。
 
こうした企業による臨海部再編を支えているのが自治体・政府の政策です。(1)戦略的な都市整備地区ということにして交通基盤等を公的資金で整備し、(2)特区や都市再生によって規制緩和して企業の事業をやりやすくしてやり、(3)エコタウンなどの枠組みを通じて補助金などで事業を支援しています。
一部の臨海部では自然再生の事業も始められているのですが、これは使い道のないいちばん海寄りの不便な埋立地を対象としていて、地域の生活者にとっての日常的な環境空間の再生とはいえません。
 
以上は全般的な動向をまとめたものですが、地域ごとに企業の再編戦略は異なり、自治体の対応の仕方も違うので、それぞれの地域の臨海部再生計画の特徴というものがあります。ワンワードで表すとこんな感じです。
  1. 千葉市・蘇我臨海部の再生計画――企業計画全面支援型
  2. 京浜臨海部の再生計画――五月雨プロジェクト型
  3. 堺北臨海部の再生計画――企画倒れ型
  4. 北九州臨海部(響灘)の再生計画――積極リスク引き受け型
  5. 四日市臨海部の再生計画――立地継続要望型
 
日本の臨海工業地域の再生計画の問題点をまとめますと、
  1. 過剰埋立、過剰港湾になっているのではないかという問題。
  2. 都市から離れた臨海部に立地するのは結局リスク事業しかなくて、人々から隔離された空間となることによってますますリスク事業を呼び集める構造となっていること。
  3. 空いた土地を別の事業で埋めるための企業支援策が当然のように行われているが、立地条件が悪くて地域資源を叩き売りしているような状況。はたして企業支援に見合った税収還元効果、地域で実感される豊かさへの還元効果があるのか。
  4. 遠隔の埋立地を使った公園整備や自然再生が、はたして地域の生活者の豊かさに寄与するのか? ユーザーサイドに立った地域環境ストックの有効活用になっていないのではないか。

 という疑問点が挙げられます。

では、こういう地域再生の方向しかないのかというとそんなことはありません。欧米でいうサステイナブル・シティの取り組みは、産業の再生よりも、生活の質を高めるための社会システムの再構築に軸足があります。
サステイナブル・シティの取組み内容を整理すると、(1)都市の成長管理、交通の需要管理システム、(2)自然資源やエネルギーのマネジメントシステム、(3)地域的社会統合(地域福祉システムの再構築)、(4)環境再生への社会的投資、という内容があると考えています。今日は(4)の環境再生への社会的投資に重点をおいてお話しします。
 
サステイナブル・シティにおいては、地域における既存の環境ストックをできるだけ効果的に活用して、地域住民の実感的豊かさ=生活の質を高めていこうという発想がありますが、そのためにはまず工業化時代に蓄積された負の環境ストックを改善する「投資」をしなければなりません。
環境再生への社会的投資の内容は、(1)「大気・水質・土壌汚染浄化への投資」が基本になりますが、その上で、(2)「環境リスク発生源の総合的管理システムの整備」に投資し、(3)「工場跡地・産業遺産などを利用した公共空間や文化的施設の整備」に展開しています。
 
「投資」というからには、投資の還元効果があります。
  • 環境ビジネスの振興(→直接的な波及効果、需要サイドからのクラスター形成)
  • 環境ストックの管理システムの向上(→人々の「生活の質」インフラ、知識労働市場の基盤)
  • 社会制度を創造する能力の醸成(→地域マネジメント力)

環境再生への社会的投資の事例として、よく欧米の諸都市が取り上げられるのですが、ヨーロッパだと遠く感じられるので、本日は国内でも可能だということを示すために、金沢の事例を紹介しましょう。
金沢では四日市とは違って深刻な公害の歴史といったものはありません。しかし、金沢でも郊外化が進んでいまして、市の中心部から施設がどんどん移転し、空洞化しています。中心部の遊休跡地をどうするかということがやはり問題になっています。一時はコンベンション施設の誘致などの計画もありましたが、それよりも都市景観・都市文化に対して社会的投資、社会制度を整備していくという形で対応しようとしています。
 
その一例が「金沢21世紀美術館」であり、「金沢市民芸術村」です。
「市民芸術村」は、紡績工場が撤退した跡地で、約97,000平方メートルという、東京ドーム2つ分の用地を市が120億円で購入し、約20億円かけて広場を整備し、さらに約17億円かけて改修工事を行いました。9割は芝生の防災広場とし、一部の旧倉庫群を保存・改装して市民の文化・芸術活動の場として非営利で供用しています。
マルチ、ドラマ、ミュージック、アートの4つの工房が、冷暖房無料、6時間1000円という格安で貸し出されています(ミュージック工房のみ2時間1000円)。これらの年間利用率はほぼ100%です。当初、民間の貸しスタジオとの競合が懸念されたのですが、むしろ音楽活動の裾野が広がったことで、民間スタジオの利用者も増えているということです。
施設のマネジメントもユニークです。一般からのディレクター制度を採り、24時間365日運営で、利用者が自主的管理責任を負うというやり方をしています。これによって、利用者の帰属意識が高く、この10年間、盗難やトラブル、壁などへの落書きさえないという好ましい状態を維持しています。環境経済学的にいうとオープン・リソースではなくコモン・リソースになったといえましょうか。
市民芸術村は、金沢の文化活動支援システムの一部として、市民の文化活動を底辺から支える公共投資の役割を担っています。同時に、行政にも従来とは違う創造的な施設管理の方式を生み出し、地域マネジメント力を高めたといえるでしょう。
写真左:
金沢大学附属小中学校跡地に開設された金沢21世紀美術館。芸術要素のある「公共空間」と見られるよう設計されている
写真右:
金沢市中心部の石川県庁跡地の一部。この左手に21世紀美術館、右手に金沢城址の石垣があり、連続性のあるオープンスペースとして整備されている
写真左:
大和紡績工場跡地(約9万7000平方メートル)を活用した金沢市民芸術村
写真右:
倉庫群を保存・改装し、金沢市民の文化・芸術活動の場として低価格で供用されている
写真左:
市民芸術村内部。倉庫を改装して一般市民も自由に入れる公共空間となっている
写真右:
紡績工場跡地の残りの空間は、緊急時の市街地防災用スペースだが、日常的には市民のスポーツやイベントの広場として使われる

最後になりましたが、四日市環境再生まちづくりプランに向けて私の意見を出させていただいて締めにしたいと思います。すなわち―
  1. 四日市でも依然として埋立計画が続いているが、残された貴重な環境ストックを破壊することになる。その要因の一つは大深度港湾にあるが、本当に必要なのか検証が必要。
  2. 企業支援型行財政の評価をきちんとすべきだが、税収還元効果だけでは不十分。
  3. 環境再生への社会的投資としては、まず、臨海部リスク管理システムの確立と、それを通じた防災システム産業、定年退職労働者の組織化などを提案する必要がある。
  4. さらに、患者や高齢者のニーズに即した介護福祉システムなど福祉型まちづくりや文化的投資による臨海市街地の再生を考えていくべきではないか。
【基調講演】 淡路剛久(JEC理事長/立教大学院教授)
「環境再生とサスティナブルな社会をめざして」
―『地域再生と環境学』の刊行を受けて―


【報告 2】 寺西俊一 (JEC事務局長/一橋大学大学院教授)
「環境再生を通じた地域再生」がめざしていること
―四日市環境再生まちづくりへの今後の提言に向けて―

ルポ メニューへ

JEC 日本環境会議