日本環境会議30周年記念尼崎大会宣言
 
 日本環境会議は、1979年6月に発足して以来、日本はもちろん、アジア地域を含む国内外の公害被害や環境問題の現状に関する調査・研究や各種の政策提言を行い、ここに30周年を迎えた。
 日本環境会議は、2007年の第25回四日市大会、2008年の第26回水島大会、そして今回の第27回尼崎大会を通じて、大気汚染による公害被害者の健康回復と公害被害の再発防止のための取り組みを進め、さらには「環境再生」から「持続可能な地域づくり」を検討してきた。
 30周年記念の第27回尼崎大会は、このような検討を経て、「環境再生から持続可能な地域づくりへ」という全体テーマを掲げて開催され、地元のみならず、広く韓国、中国、マレーシアを含めてアジア各国、また東京、川崎、名古屋、四日市、倉敷など全国各地から、約400名が参加した。

 第1分科会「道路公害問題と地域再生・被害者救済」では、尼崎地域における道路公害の解決を目指し、裁判から和解、「連絡会」での協議へと至った経緯をふまえ、国の道路政策の問題点と課題を議論した。その上で、あるべき交通社会の将来像と、それを尼崎で実現しようとする場合の問題点を明らかにし、被害地域の再生を図る上での具体策を探った。その際、被害者救済の視点を忘れてはならず、地域における福祉的対応を含むまちづくりの重要性を認識した。これらの議論を通じて、原告患者らの公害反対運動が地域再生の運動と結びついていること、地域再生の運動が南部再生プランなどによって地域のめざす将来像を豊かに描き出そうとしてきたことの意義が評価された。これまで、様々な課題を抱えながらも、国・自治体等とのパートナーシップの確立が目指されてきた。現在、国の交通政策は大きく変わりつつあるが、それが激甚被害に苦しんできた地域の再生に役立つものでなければならないことを、第一分科会は確認した。

  第2分科会「アスベスト被害の実態と補償・救済」では、アスベスト被害救済に係る課題やその被害責任の所在について、尼崎や泉南での被害事例の報告も交えて議論が行われた。日本におけるアスベスト災害は2005年6月、クボタ尼崎工場周辺住民の中皮腫患者が支援団体とともに株式会社クボタを告発し、はじめて深刻なアスベストの全国的な被害が明らかになった。政府は全国の調査をはじめたが、アスベスト被害者は全職業にわたり、年間死者は2、000人を超えることが明らかになった。政府は2006年2月に「石綿による健康被害の救済に関する法律」を制定したが、法的責任は明らかにせず、環境暴露による被害者の救済対象は中皮腫と石綿肺がんに限り、その救済費も死者300万円と少額にとどまっている。このような課題の克服に関連して、各地で被害をめぐる運動が展開されており、泉南アスベスト国賠裁判や、国と企業の連帯責任を問う首都圏建設労働者アスベスト裁判をはじめ、様々な裁判が進行中で、その成果が期待されていることが各報告と議論によって明らかにされた。

 2007年11月、日本環境会議は、大気汚染公害被害者のあらたな救済制度の検討会を組織し、全国大気連や被害者団体などと意見交換を重ねてきた。尼崎大会では、その成果である「新たな大気汚染被害者救済制度の提言」の発表・検討が行われ、大気汚染被害者救済制度を早期に確立すべきことが確認された。

 全体シンポジウムでは、「環境再生から持続可能な地域づくりへ」と題して多彩な議論がなされた。かつての「公害都市」尼崎で、これまで取り組まれてきている「環境再生」とまちづくりの具体的な経験をふまえ、全国的な視点、およびアジア的な視点から今後の展望が議論された。

 これらを受けて、日本環境会議は、以下のことを提言する。

1 道路公害の根絶だけでなく、公害被害地域の再生を図ること
 尼崎は、阪神工業地帯の中心に位置し、工場群の操業による排煙や国道43号線・阪神高速道路などでの自動車排ガスによる大気汚染で深刻な被害が発生した。尼崎の南部地域には、数多くの公害被害者や高齢者が居住している。工場の排煙は低減したが、2階建て道路による沿道被害は依然として継続している。これまで、被害者と国等による「連絡会」での協議が続けられてきたが、今後も「連絡会」での合意を基礎とした対策の推進を早急に進めるべきである。第1に、環境ロードプライシングや車線規制などの交通規制により、道路公害を速やかに軽減していかなければならない。第2に、国道43号線により分断された南北地域の人々の負担軽減をはかるため、少なくとも、エレベータ付き歩道橋の設置等、バリアフリー化を推し進める必要がある。

2 アスベスト被害を全面的に救済し、新たなアスベスト被害を出さないこと
  今後、長期にわたって多数の被害者が発生することが予測されるため、アスベスト被害対策は予防から救済にかけて全面的な対策が必要である。まず「石綿による健康被害の救済に関する法律」の全面的改正を要求する。改正によって環境暴露による被害救済対象を広げ、救済費を労災補償並みに増額する。そして、アスベスト健康被害をめぐる裁判を進展させると共に、国と企業の責任を明確にする疫学調査、アスベスト暴露者の登録と健康診断制度、現在蓄積されている建材などの商品の実態解明などによって埋もれた被害の全面的救済が求められている。特に今後、建造物の解体とアスベスト廃棄物の安全な処理が重要であり、有効かつ安全な解体・処理方法の設定とその遵守が徹底されるための法制度を確立すべきである。

3 新たな大気汚染被害救済制度の提言
 大気汚染公害による健康被害の早期救済は依然として重大な課題である。 従来の公害健康被害補償法とは別に、健康被害に苦しむ患者の医療費救済と沿道被害者に対する補償のため、新たな大気汚染被害者救済制度を早急に設けるべきである。

4 持続可能な地域づくりへ
 日本では、今なお多くの公害が発生している。公害被害地域をそのまま放置して、市民を苦しませてはならない。住み良い緑にあふれた地域に戻すことは公害被害者の願いでもある。尼崎では、市民を主役として、環境再生のこころみがされており、尼崎で公害被害地域の再生がすすめば、他の地域のモデルともなりうる。
 環境再生と道路公害の根絶は長年の課題であり、公害被害地域の環境再生は、地球環境問題の解決にも資するものである。そのために、ここ尼崎の地から持続可能な地域づくりを進め、全国、そして世界へと発信していくべきである。

2009年11月22日
日本環境会議30周年記念尼崎大会

 
JEC 日本環境会議