2006 09/06 更新分

ルポ メニューへ
 アスベスト国賠訴訟 第1回口頭弁論傍聴記 <下>

▼「記録」  この訴訟の意義/訴状の内容………弁護団の見解
この訴訟の弁護団―大阪じん肺弁護団は06年5月26日、大阪地裁に提訴しましたが、当時、弁護団がまとめた文書は、この訴訟の基礎データになるので、「記録」としてここにご紹介します。

■資料 1■  訴訟の意義とこれまでの経過
「大阪・泉南地域の石綿被害に関する国家賠償訴訟の意義とこれまでの経過」
  • 弁護団と市民の会、医師らによる継続的な「医療・法律相談会」の実施
    元従業員、周辺住民、家族の方など200名近くの相談者が訪れ、そのうち半数近くの方々が石綿関連疾患に罹患していることが明らかになり、弁護団も深刻な被害と被害の広がりを確認した。工場近隣の居住者で石綿肺に罹患している人は24名中6名(25%)であった。
  • アスベスト新法に対する要望と国会、環境省への要請
      弁護団と市民の会は、国会や環境省に対して、泉南地域の石綿被害の実態から、肺がんや中皮腫だけでなく石綿肺などすべての石綿被害者を対象にした真に隙間のない救済法の必要性を訴えた。
  • 国による責任を曖昧にしたままでの不十分なアスベスト新法の制定にもかかわらず、国は、自らの責任を認めず、救済対象を肺がんと中皮腫に限定し、石綿肺、びまん性胸膜肥厚などの石綿関連疾病を除外し、救済金額も低額に抑えるというとても隙間のない救済とは言えないアスベスト新法で事を済まそうとしていた。
  • 弁護団、市民の会、医者らによる様々な被害者救済の取り組み
    これまでに、労災認定申請、新法での救済申請を約30 件行い、現在も引き続き相談会を実施してい
    る。今もなお、毎日のように相談者がある状況である。
    また、被害の全面的な掘り起こしが必要性であることから、行政に対して、被害実態調査や疫学調査の実施を要望している。
  • 弁護団、市民の会、医者らによる世論喚起の取り組みなど
    泉南地域の石綿被害と救済を考えるシンポジウムの開催、日本環境会議などの現地調査を受け入れ、パンフレットの発行準備など。
  • 国家賠償訴訟の提起に向けた検討
    全国じん肺弁護団の協力、学者の皆さんの助言なども得て、約半年間に亘って、事実関係の調査や法的問題の検討など提訴に向けた準備を進めてきた。

2 国家賠償訴訟の意義、特徴
  1. アスベスト新法の不十分さと国の責任の明確化の必要性
    過去の被害も、現在の被害も、将来の被害も、あらゆる石綿被害は、全面的に救済されなければならない。ところが、アスベスト新法は前述のように極めて不十分なものであった。
    これほどまでに石綿被害が拡大したことに対しては、国に責任があったことは明確であり、残念ながら 国が自ら責任を認めない以上、司法の場で責任を明確にすることが不可欠で、そのことが新法の見直しの大きな切っ掛けにもなる。
  2. 泉南地域から声を上げることの重要性
    泉南地域は、古くから石綿紡織業が発達し最大の石綿生産地であった。そのため、石綿被害も、戦前から長期に亘り、従業員ばかりでなく工場近隣住民や近隣作業者、家族などに広範に広がり、石綿肺や肺がんで苦しみながら死亡したり、長期間に亘って日常生活上での苦しみを受ける、あるいは家族ぐるみに被害が発生するなど深刻に進行している。
    そうした泉南地域から声を上げることは当然であると同時に、激甚な石綿被害を明らかにしていく上で極めて重要である。
  3. 泉南地域で国自身が全面的な被害救済を行う必要性
    泉南地域の石綿工場はほとんどが零細業者であり、すでに廃業、つぶれているところも多い。従って、全面的な被害者救済のためには、これほどまでに石綿被害を広げたことに責任のある国が、自ら全面的な救済を行うことが必要である。
    同時に、泉南地域の激甚な石綿被害に関しては、国自身が、戦前から繰り返し調査を行って、調査にあ たった医師らから法律による規制の必要性まで訴えられながら、何ら有効な対策を行って来なかったという怠慢が明らかになっている。その意味からも国自身が全面的な被害救済を行うことは当然である。
  4. 全国の石綿被害者の先陣を切る訴訟
    石綿被害の特徴は、生産、製造、解体、廃棄の各過程で、労災、公害が発生するいわゆる複合型社会的災害である。従って、様々なところで被害が発生しており、これからも被害発生が続くことは確実であり、今後も、様々な被害現場から次々に国の責任を追及する訴訟が提起されることになると思われる。
    従って、本件訴訟は、生産現場で激甚な労災、公害が発生した泉南地域がこうした全国的な石綿訴訟の先陣を切る訴訟である。
  5. 石綿被害者の全面的な救済とともに万全な対策の実施を行わせるためにも万全な防止対策を行わせるためにも、過去の責任を明確にすることが必要である。責任が曖昧なままでは万全な対策が行われないというのがこれまでの労災、公害事案の教訓である。

3 原告ら被害者の特徴
  1. 元従業員、近隣住民、近隣作業者、元従業員の家族など、原告らは、泉南地域の石綿被害を象徴する者。
  2. 家族ぐるみの被害者も。
  3. 単一の工場に勤務していた者もいれば、複数の工場に勤務した者も。
  4. 原告らの病名も、石綿肺、肺がんなど多様な石綿関連疾病を含み、長期間苦しみながら死亡した被害者など石綿被害の深刻さも示している。

4 提訴の日程等
  5月26日午前9時30分  大阪地方裁判所玄関前に集合
       午前10時     提訴
       午前10時30分  記者会見


■資料 2■  訴状の内容と裁判の進行等
「訴状の内容と裁判の進行等について」
  ・大阪じん肺アスベスト弁護団


1 原告ら被害者
  元従業員、工場近隣住民、工場近隣作業者など8名
  石綿肺、肺がん、びまん性気管支炎などの石綿被害者

2 被告
  国

3 国の責任の根拠
  1. 国に請求できる根拠は、国家賠償法1条1項。
  2. 国民の命や健康を守ることは国の最も重要な義務であり、それは憲法の各規定からも導かれる。
  3. 泉南地域の石綿産業となぜ広範かつ深刻な被害が発生したか
    ・泉南地域の石綿紡織業は100年の歴史があり、全国一の石綿工場の集積地。
    ・石綿製品は、自動車、造船など日本の基幹産業をはじめとする高度経済成長になくてはならない不可欠な製品であり、泉南地域の石綿産業は、そうした基幹産業のめざましい発展を下支えしてきた。ところが、そのほとんどが中小零細工場で、排気装置や除じん装置が不十分な劣悪な労働環境のままでの操業が長期間に亘って行われた。これが、泉南地域の工場内外で石綿被害をこれほどまでに広げた原因であった。
  4. では、なぜ国は責任を問われるのか
    ・実は、国は、石綿によって重大な健康被害が生じることを一般的に知っていたばかりか、70年も前から、国自身の詳細な調査で、泉南地域に大変な石綿被害が発生していること、石綿工場が排気装置や除じん装置が不十分なまま操業していることがその原因であることなどを十分に知っていた。それも、戦後まで数十年に亘って繰り返し繰り返し調査が行われていた。また、調査にあたった医師らからは、戦前から法規制の必要性も訴えられていた。こうした事実は本当に重いものがある。
    ・さらに、泉南地域の石綿工場はそのほとんどが中小零細工場であり、残念ながら、こうした中小零細工場が自ら進んで十分な被害防止策を行うことは、資金面からも技術面からも期待すべくもなかった。国はそのことも良く知っていた。
    ・とすれば、国民の命や健康を守る最大の責務を負っている国には、あらゆる方法を駆使して、石綿被害を防止する対策を行うことが求められていた。また、憲法や労働法規、大気汚染防止法、毒劇法などによって、そうした権限行使、行政指導は可能であった。
    ・ところが、国は、何ら有効な対策や法規制、行政指導を行わなかったばかりか、不十分な防じん装置のままの操業や、あるいは窓を開けての操業などによって、大量の石綿粉じんを工場外にも飛散させていることも黙認していた。これは、国自身が、石綿被害を直接引き起こしたと言っても良いほどの重大なことである。
    ・もはや、どう考えても、どこから見ても、国に責任があることは明らかである。
  5. 請求する損害額について
    ・石綿関連の病気は、有効な治療法がなく、一度かかると治らない(不可逆性)、石綿から離れても症状が進行する(進行性)という特徴があり、肺という人間の生命保持にとって最も重要な臓器が破壊されるという点でも重大な病でもある。
    ・そこで、身体的被害、精神的被害、社会的被害、悲惨な苦しみの中で死亡するという生命被害など の総体的被害の慰謝料として、3000万円を損害額として請求する。

4 裁判の早期進行と解決の展望
  • 弁護団は、早期審理を裁判所や国に求めていく。カギは、国が誠実に対応するかどうかである。
  • 被害者の早期救済が第1であり、国には遅くとも第一審の結論が出た段階で、それを踏まえて、新法の見直しなど全面的な被害者救済のシステムを作ることを求めていく。

5 当面の裁判の進行
   ・5月26日の提訴後、裁判所の中でどの裁判官が審理を担当するか決まる。
   ・おそらく、8月以降に第1回の裁判が入るのではないか。
   ・その後は、しばらくは、双方が言いたいことを主張しあう手続きが続く。
   ・そして、立証段階に入り、判決へという流れになる。
   ・通常は、1〜2か月に1回程度の裁判が開かれる。

■資料 3■  提訴時の写真
写真:勢揃いした原告・弁護団・支援者は全員が緊張した面持ち=大阪地裁前で
写真:芝原弁護団長(左から2人目)や原告の人たちが記者の質問に答える
写真:資料・写真を掲げマスメディアに説明
写真:市民支援のリーダー、柚岡一禎さんの説明も熱を帯びた
=いずれも大阪地裁記者クラブで
【写真提供:大阪じん肺アスベスト弁護団】


■大阪弁護士協同組合が『アスベスト被害者救済のための労災補償・健康管理手帳・アスベスト新法活用法』を刊行■
大阪弁護士協同組合が大阪じん肺アスベスト弁護団編集による『アスベスト被害者救済のための労災補償・健康管理手帳・アスベスト新法活用法』を8月30日刊行した。
アスベストによる被害の実態が急増したものの、弁護士でさえ、労災請求、じん肺管理区分の決定、アスベスト新法による給付申請などなじみが薄く、弁護団がこれまで取り組んだ結果、蓄積したノーハウなどをまとめたもの。
A4版、105ページ、1500円(税とも)。
*連絡先*
  〒530−0054 大阪市北区南森町2−2−7 シティ・コーポ南森町503
  りべるて法律事務所 
  TEL 06−6362−6678   [ E-mail ] asbestos@kitaosaka-law.gr.jp
ルポ メニューへ

JEC 日本環境会議